あなたも誤解している?!忘却曲線の本当の意味とその活用法

エビングハウスの忘却曲線

「エビングハウスの忘却曲線」をご存知でしょうか?

非常に有名なグラフですので、見たことがある方も多いでしょう。

しかし実は、有名な一方でその意味が誤解されていることも非常に多いのはご存知ですか?

今回はこの、忘却曲線の本当の意味と、それに基づいた効果的な勉強法についてご説明していきます。

忘却曲線とは?

忘却曲線とは、その名の通り「記憶の忘却を表している曲線」です。

ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスの発表したものが有名ですが、それだけではないようです。

「忘却曲線」という言葉で一般にイメージされるのは、この「エビングハウスの忘却曲線」ですが、他にも忘却曲線と呼ばれるものは導かれているので、「忘却曲線」が即ち「エビングハウスの忘却曲線」を意味するというわけではありません。

このエビングハウスの忘却曲線は、1885年に出版された『記憶について : 実験心理学への貢献』に記載されていたものですから、実に130年以上も前の研究結果ということになります。

エビングハウスの行った実験

では、この忘却曲線を導くために、エビングハウスの行った実験とはどのようなものだったのか、ご紹介します。

エビングハウスは「無意味つづり」と呼ばれる、”WEK”, “TIG”, “QOM” などのように「子音 + 母音 + 子音」からなり、なおかつ意味を持たない音節を無数に作り出し、そこから無作為にいくつか取り出したものを自ら記憶しました。
そして、少し時間をおいた後に、同じ内容を再び完全に記憶し直すまでに必要な復習の時間(あるいは回数)を記録しました。

そして、それが当初に必要であった時間(回数)と比較して、どれほど削減できていたかを「節約率」として、それをグラフ化したものが「エビングハウスの忘却曲線」です。

例えば、最初に「無意味つづり」を記憶するのに10分かかったとし、その少し後に再び覚え直したときに7分で覚え直すことができたならば、当初の70%の時間ですから「節約率」は30%ということとなります。

エビングハウスの忘却曲線の誤解

さて、エビングハウスの忘却曲線がどのように導き出されたものなのかをご紹介しましたが、これを振り返りつつ、このグラフについて一般にされがちな誤解について説明していきます。

記憶量を表しているわけではない

まず、よく一般にされている最も大きな誤解は「このグラフにおける縦軸は覚えている量を示している」というものです。
しかし、そうではありません。先述の通り、あくまでこれは「節約率」です。

そもそもの名前が忘却曲線であり、 右肩下がりの形状から、元々を100としたときにどんどん忘却されていって記憶量が減っていく、というような解釈がされがちです。

よく言われることとして、20分で42%もの情報が忘れられてしまう、というものがありますが、あくまでこれは20分後の「節約率」が58%であることを表しているだけです。

もちろん、エビングハウスのこの実験自体は、時間経過と残存する記憶の関係性を明らかにすることを、もともと目的としたものと言えるでしょうが、行った実験が「節約率」を測るものであった以上、この結果を鵜呑みにする訳にはいかないでしょう。

実際的にも、20分で覚えたことの4割以上を忘れてしまう、というのは実感からも遠いのではないのでしょうか。
逆に、一度も復習をせずに6日が経った後でも4分の1は覚えていて、グラフの傾きを見るにそれから更に時間が経っても、大きくは減衰することなく、25%に近い水準を保つ、ということもあまりなさそうです。

短期記憶についてではない

また、これは「短期記憶」についての実験でもありません。

誤解されがちなのですが短期記憶というものは、せいぜい一分程度の保持時間しかないものですから、この実験で調べられるようなものではありません。

短期記憶は脳の海馬という場所で「仕分け」をされ、必要だと判断されたものが「長期記憶」として貯蔵されるために大脳皮質という場所に送られます。
この海馬での保管期間は、一ヶ月程度とされています。この期間の記憶も含めて短期記憶と考えてしまうと、エビングハウスの実験もそれに関わるものとなってしまいますが、短期記憶は秒単位の短い時間のみ保持されるものですから、海馬に保管されている時間については、もはや「短期」ではなく長期記憶への移行期だとすれば「中期記憶」とでも呼ぶべきものでしょう。

また短期記憶については容量も非常に小さいものとされ、それは「マジカルナンバー7」という言葉で表されます。つまり7つ程度のものなのです。エビングハウスの実験の「無意味つづり」は3ケタだけですが、複数を覚える必要があるため不可能になってしまいます。

したがって忘却曲線を参考に復習を行い、記憶の定着化、長期記憶化を図ることが勉強において重要と言えます。

どんなことにも適用されるものではない

そして、ご説明した通り、エビングハウスの実験によって記憶されたのは「無意味つづり」です。

無意味なものを丸暗記する、という考えてみれば非常に特殊な状況です。私たちが覚える必要のあることというのは、基本的には何か意味があるもの、ですからエビングハウスの実験とは状況が異なると言えるでしょう。

この「無意味つづり」においては、”CAT” や “POT” のような、意味のあるものは意図的に排除されています。徹底的に「無意味なもの」だけが選ばれているのです。
恐らく、意味のある文字列になってしまった場合は、単なる文字の丸暗記ではなくなってしまい、より良いスコアが出てしまうからでしょう。

逆に言えば、私たちが何かを勉強する際には、もっと効率的に覚えられますし、より効果的な記憶術・勉強法を利用することができるということです。

ウォータールー大学の忘却曲線

カナダのウォータールー大学での実験では、エビングハウスのものとは別の忘却曲線が導かれています。

忘却曲線2

© University of Waterloo 1992-2019

この忘却曲線においては、縦軸は保持されている記憶の量です。エビングハウスの実験とは割合は異なりますが、しかし大きく捉えれば、やはり直後に急激に記憶は失われ、だんだんと緩やかに減衰していく、という指数関数的な忘却の様子は共通しているとも言えます。

また、この実験の特徴は短時間の復習を導入していることです。

実験の一日目に行われる講義は1時間のものですが、翌日に10分間の短い復習を行った場合、記憶は一日目の講義直後にほぼ近い状態まで記憶を復元することができます。その後、やはり記憶は減衰していきますが、減衰の仕方は幾分緩やかになっています。

更に、7日目には2日目よりも更に短い、5分間だけの復習を実施します。これによってもやはり記憶は100%に近く引き上げられますし、その後の減衰もまた緩やかです。そして、30日目に再び2〜4分の短い復習が実施されます。
それぞれの復習時間は短いですが、復習を実施しなかったときのものと比較してみれば、記憶の保持率は段違いです。

忘却曲線の勉強への活用

さて、エビングハウスの忘却曲線、及び、ウォータールー大学の忘却曲線を見ていきましたが、では私たちはこれらの研究を如何に日々の勉強に活かすべきなのでしょうか?

復習の有効性

まず、両方の忘却曲線から共通して読み取れることは「復習は記憶の保持に非常に有効である」ということです。

エビングハウスの忘却曲線は「節約率」に着目したものでした。これは「復習」に必要な時間・労力をもとに計算されたものです。

このグラフの一つの大きな示唆は、最初の復習はなるべく早く行うべきである、ということです。
何故なら「節約率」は学習直後から急激に低下してしまうため、後回しにしてしまうと「『節約率』が低い」つまり「復習効率が悪い」状態に陥ってしまうからです。

復習は短くても有効

また、ウォータールー大学の忘却曲線においては、復習の時間は非常に短く設定されています。エビングハウスの実験においては、翌日の節約率は33%ですから、元が60分の講義であったならば40分は復習に必要ということになります。

しかし、ウォータールー大学の実験では、記憶の完全な復元までは至らないものの、かなり100%に近い水準まで、10分間(節約率で言えば約83%)の短い復習で、記憶を回復させられています。

つまり、エビングハウスの忘却曲線における基準よりも短い時間の復習でも、充分な効果が期待できるということです。
これは「復習」という、人によってはあまり気の進まない勉強のハードルを幾分下げられる研究結果ではないでしょうか?

単なる一時的な復元ではない

加えて、復習は単に記憶を一時的に復元するのみならず、その後の減衰も緩やかにすることができるということを、ウォータールー大学の忘却曲線が明らかにしています。
理想を言えば、翌日の復習の以降も、一週間後、一ヶ月後に、短時間でも復習の時間を確保することで、記憶をより効果的に保持することができるわけですが、日々で学習した内容それぞれについて、そういった復習管理を行うことは非常に労力が大きく、実現が難しいと言えます。

そのため、実現がしやすい内容としては、短時間でも必ず翌日に復習を実施するということを習慣化することが挙げられます。
あるいは、その後の復習をリマインドするようなアプリなどがあれば、それを利用するという手もありますし、学習内容それぞれの復習というよりも、それを用いた演習問題などを利用するというのは効率的かも知れません。

まとめ

今回ご紹介した、忘却曲線に関するポイントは以下のようになります。

ポイント
  • 「エビングハウスの忘却曲線」は、復習の「節約率」を表したもの
  • 最初の復習のベストタイミングは翌日
  • 短時間の復習でも記憶の復元は十分に可能。その後の忘却も緩やかに

有名な忘却曲線ですが、みなさんは誤解していなかったでしょうか?

忘却曲線を正しく解釈し、より効率的で確実な勉強に役立ててみて下さい!

(参考)
UNIVERSITY OF WATERLOO | Curve of Forgetting

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