危険物取扱者試験各種の攻略と、無駄のないスキル習得パスは?

危険物取扱者

あらゆる建物の周りを歩いていると、学校やビルの壁などがふと目に飛び込んでくることあります。

そこに大きな白い板で、人のフルネーム表記やなにかの中身など「第×類」として書かれているのが気になっていたという方はありませんか?
ガソリンスタンドなどのほか、タンクローリー、タンク類をまとめて運ぶ車両などでもよく見られる表示です。

これは実は、「危険物」として法で定められた物質を貯蔵したり運搬したりする時に表示を義務付けられたもの。
この表示中には「危険物取扱者」の氏名表示などが含まれます。

実はこれ、施設管理以外にも、諸届などさまざまな場面で有資格者による判断やチェックがある方が望ましいとする職種や業界が多く、非常に引く手あまたの資格なのです。

そこで今回は、危険物取扱者試験各種の特徴や攻略方法と、この中で複数資格を受験したい&関連して業務などに活きる他の資格も取得したいといった方に向けて、無駄のないスキル習得パスなども含めてご紹介します。

「危険物」とはどんなもの?

「消防法」「毒物及び劇物取締法」「高圧ガス保安法」「労働安全衛生法」「火薬類取締法」「危険物船舶運送及び貯蔵規則」などをはじめとする各法で、6つの系統に分かれた危険物が指定されています。

  • 第1類:塩素酸カリウム、過マンガン酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウムなど酸化性固体
  • 第2類:硫黄、赤リン、マグネシウムなど可燃性固体
  • 第3類:ナトリウム、リチウム、黄リンなど自然発火性物質及び禁水性物質
  • 第4類:ガソリン、灯油、軽油、エタノールなど引火性液体
  • 第5類:ニトログリセリン、トリニトロトルエン、アジ化ナトリウムなど自己反応性物質
  • 第6類:過酸化水素、硝酸など酸化性液体

それぞれ、運搬や貯蔵の間、腐食浸食や爆発を伴う反応などを起こす可能性がある物質もあります。

そのため、これらの運搬や貯蔵を行うための容器の形状や素材、事故時の中和剤や消火剤などの選定や処理手順、取り扱い手法や、各種の安全措置などについての判断も含めて責任をもって取り扱う必要があります。

危険物取扱者資格の区分について

さて、これらすべてを取り扱う、あるいは前述の6つの類型ごとに取り扱う、また、このうちガソリンスタンド他で取り扱う鉱油類や動植物油類の一部に限って取り扱う区分での国家資格試験が、今回ご紹介する「危険物取扱者」です。

危険物取扱者資格は、甲種、乙種、丙種の3つに分かれており、このうち一番難しい甲種は、先ほどご紹介したすべての危険物を取り扱うことができる最難関資格です。

また、丙種は、ガソリンスタンドなどで扱う鉱油類などにだけ絞った、もっとも簡単な資格。
乙種は先ほどご紹介した6類型の危険物について、乙種1~6類の6つの区分のどの資格を所持するかで扱える危険物が制限されています。

甲種は、比較的レベルの高い国立大学院で化学専攻だった人が受験するにしても、ちょっとひねった癖のある問題も少なくないともいわれています。

そのため、実務に就く多くの人たちや、他学部専攻からの受験者の多くは、乙種の1~6類を取得することが多いようです。

危険物取扱者試験について

都道府県知事から委託を受けた各都道府県の消防試験研究センター支部や、東京都の中央試験センターなどが危険物取扱者試験を行っています。

乙種・丙種は受験資格に制限はなく、受験地の制限もありません。
甲種については、大学などでの専門教育を受けている人、実務経験がある人、複数の乙種免状を持つ人などに受験資格があります。

危険物取扱者試験は、その種類によって、開催されている頻度がかなり異なり、さらに都道府県によって、年間を通じての試験実施回数がかなり異なっています。

もっとも受験者数の多い丙種は、東京都内に限れば、ほぼ毎週のように試験を実施しています。
各都道府県の都市部も、比較的試験実施回数は多いようです。

甲種については、多い地域で2か月に1回程度。少ないところでも3か月~6か月ごとに1回程度は開催されています。
乙種については、月に1回程度のところから、半年ごとに1~2回程度のところまでと分かれています。
丙種についても都道府県によって異なりますが、乙種に準じるスケジュールのところが多いようです。

受験地域の制限がない試験のため、近隣でスケジュール的に都合の良いエリアに出願して、職場などでの有資格者選任のためスムーズな資格取得を行わせるといった企業も多いようです。

試験内容

甲・乙・丙種の試験それぞれの出題レベルはかなり異なり、乙種の中でも「特に難しい類」と呼ばれるものなどもあります。
また、甲・乙・丙種の間で、いずれかの試験に合格したからと言って他の種の試験科目の免除制度は存在しません。

ですが、乙種の中でいずれか1つに合格して免状発行を受ければ、乙種の他の類の試験科目のうち、「法令」と「基礎的な物理化学」は科目免除となります。
乙種試験は、1日のうちに複数類を受験することができます。

また、乙種丙種では「火薬類製造保安責任者」「火薬類取扱保安責任者」といった資格を持つ人や、消防学校などで教育を受けて活躍する消防団員などについての試験科目免除制度があります。

1試験あたりの受験料は、甲種:6,500円、乙種:4,500円、丙種:3,600円です。
乙種の場合、複数の類を受験すれば、その1類ごとに4,500円が必要です。

甲種、乙種は5肢択一、丙種は4肢択一のマークシートです。
試験時間と問題数は甲・乙・丙それぞれ、150分(15/10/20の計45問)、120分(15/10/10の計35問)、75分(10/5/10の計25問)です。

合格後、免許を発行すれば10年間有効、10年ごとに写真の書き換えが必要です。万が一これを忘れてしまっても、再試験を受ける必要はなく、免許自体が失効することはありません(免状のみが失効)。

合格後、どんなところで活躍できるの?

危険物取扱者は、よく知られているガソリンスタンドなどでの活躍のほか、工場での設備管理技術者や、そのバックアップ要員として働く事務系管理部門など広く活躍の場があります。

また、陸送や海上輸送、航空輸送などにかかわる企業や、コンテナでの輸出入、タンクローリーなどでの受け渡しや契約などを行う企業では、自社には有資格者が不要なケースでも「できれば本資格の見識があるほうが望ましい」といった求人は多くみられます。

現場技術者や各種のオペレーター、施設内の技術系管理職種、事務系管理職種など含めて、非常に活躍の場は広くあります。

どの試験を受ければいいの?

さて、片やまじめに過去問を解いてさえいれば誰でも合格するといわれている丙種、片や最難関で広くあらゆる化学式なども含めて覚えなければいけないという甲種のほか、多くの人が受けるのが乙種の各類です。

この中では、2類3類4類は比較的やさしく、1類5類6類は比較的難しいといわれています。

このあたり、人によってかなり感じ方は異なるため、もし理工学などの専門教育を受けているのであれば、自分の得意な、あるいは学校や業務で取り扱い経験も多い類から受けるのが良いでしょう。

もしこういった経験が一切なく危険物の全体像がつかみにくいなら、ガソリンスタンドなどでも取り扱いがあり、揮発や出火発火、消火などの設備も多く、日常生活に非常に浸透している乙種4類からの受験をおすすめします。

乙種4類試験について

これは丙種の上位資格に当たり、丙種では10種類前後の取り扱いが可能ですが、乙種4類ではすべての可燃性液体が取り扱えます。
そして、有資格者以外に可燃性液体を取り扱わせることができる「立ち会い」を行うことができるのは、乙種4類のみです。
また、危険物取扱者各種試験の中で、最も受験者数が多いのもこの乙種4類です。

丙種と乙種では乙種各類共通科目の「物理化学の基礎」の部分で得点差が大きくなり、丙種であれば過去問丸暗記でも合格できますが、乙種については化学式、構造、モル計算などが必要です。
大学一般教養程度の内容が求められるため、高校で化学が得意だったという人でも、しっかりと試験対策は必要です。

合格率も丙種は50%前後、その他の乙種については合格率が60%前後であるのに対して、乙種4類では一部科目の免除を受けた人を含めても30%前後です。

これは「乙種の場合、業務で必要なため、試験対策もそこそこに、企業でまとめて受験する人が多いこともあるのでは?」と言われています。

試験問題としては乙種4類が特に難しいというわけではなく、むしろ乙種の中では比較的理解も得点もしやすい方に入ります。

対策教材について

対策教材のおすすめは、丙種では、書籍よりもスマホアプリなど、繰り返したくさん問題が解ける問題集がおすすめ。
解きながら解説から学んでいくだけでよいかもしれません。
試験前までに全体を2~3回解いてよく理解しておきましょう。

現在発売されている問題集としてはコンデックス情報研究所の『本試験型 丙種危険物取扱者資格試験問題集』が2011年出版ですが比較的評判がよく、代表的な問題が豊富です。

また、テキストと数回分の模試のタイプであれば、U-CANの『丙種危険物取扱者速習レッスン』が広く人気です。
これについては、別の問題集で演習をすこし増やすのがおススメです。

出題範囲自体は、乙種と丙種で非常に大きく違うというわけではありませんが、選択肢の数が1つ増えて5つになる乙種試験では、しっかりテキストと問題集をそろえて、計算や化学式などを中心にポイントをおさえていくのがおすすめです。

基本的には「基礎的な物理及び基礎的な化学」と「危険物に関する法令」以外の科目では、各類ごとに物質とその対応、性質などについて細かに暗記しなければいけない「危険物の性質並びにその火災予防及び消火の方法」の暗記が大変です。多くの受験生は語呂合わせで覚えています。

乙種対策では4類に限らず人気なのは、公論出版の『乙種4類危険物取扱者試験 ××年版』のシリーズです。

問題数が豊富で、2019年版の問題集には、2012〜2018年に出題された467問が収録されています。
様々な出題形式の問題集であることに加えて、簡単にまとめて書かれているテキストを兼ねており、これ1冊で合格できたという人が多いようです。

その他のおすすめテキスト

問題集としては先ほどご紹介した『乙種4類危険物取扱者試験 ××年版』のシリーズがおすすめですが、このほかに非常に丁寧でわかりやすい解説で、オーム社の『乙種4類危険物試験 精選問題集』も人気です。

また、工業資格教育研究会の『チャレンジライセンス乙種1・2・3・5・6類危険物取扱者テキスト新訂版』もベーシックかつすっきりとまとまっており人気です。

最近の書籍で、レイアウトもライトで見やすいタイプでは『10日で受かる! 乙種第4類危険物取扱者すい~っと合格』が人気です。

科目免除で受験する場合の問題集では、先ほど紹介した乙種4類の問題集に加えて公論出版の『乙種1・2・3・5・6類危険物取扱者試験(科目免除者用)××年版』で対策しておくと良いでしょう。

乙種4類に合格した後は……

さて、乙種の場合、6類の中の1類に合格した時点で免状が発行されます。
そして、その後は科目免除を生かした受験方法が一番低負担です。

乙種4類、あるいはその他自分にとって受験しやすい類に合格したら、試験場を選び、次回から2類、3類ずつ受験しておくのが良いでしょう。

試験場はどこの会場もほとんど流れ作業のようなタイプとなっており、他の国家試験に比べてもあまり緊張するという方は少ないかもしれません。

ですが、現業系の職種の方も多く、さらには、試験途中で退出する方が非常に多く、その他の国家試験に比べて、試験室が騒々しくなってしまうことも……。
日頃からいかなる条件でも集中して問題に入れるよう、練習しておいたほうが良いでしょう。

また、複数受験の場合は特に、よく似た名前の物質が出てくるときや性質の混同などを起こしがち。
受験する各類ごとにテキストを変えて、ビジュアルと語呂合わせの特徴で覚え分けておく方が多いようです。

乙種試験の受験パターン

乙種4類に合格した後には、簡単な2、3類をまとめて受験し、さきにサクサクと合格した類を集めていくのもよいのですが、名称や構造などが面倒な1、5、6類と組み合わせて、試験対策の負担を分散させながら受験するのも良いかもしれません。

2類は引火性固体、3類は自然発火性物質及び禁水性物質で、学校での学習内容では大体似たようなものとして押さえている方も多いかもしれません。
物質と消火方法の出題範囲をしっかり暗記して受験するだけでよいといえばよいのですが、この2つを同日に組み合わせて受験すると混乱するという方もいるかもしれません。

比較的理解しやすく、癖のない問題が出るため、過去問を幾度も解いて形式に慣れておけば、得点に直結するでしょう。

1類は酸化性固体で、学校で習ってきた以上に非常に覚えなければいけない物質数や項目数が多く、暗記型の受験生でも多少負担が大きいかもしれません。ですが、しっかり取り組めば、1~2週間でカバーできる範囲です。

5類、6類は出題される物質数が少ないものの、ひねった問題が比較的多いことで受験生には「鬼門」とされることも多いようです。
この二つだけは、予想を上回る「だれもが回答できないだろう問題」がギリギリの問題数含まれていることも多くあります。

実務経験や専門教育がない方は、まずしっかりとテキストを読み込んで完璧に性質など基本項目を理解する。そしてこれまでの出題問題を解きまくる対策で、1科目に1月以上かける、という方もいます。

乙種受験では以下のいずれかのパターンが、個人的にはおすすめです。

  • A 合格できる類から集めるパターン
    乙4 → 乙2・3 → 乙1、6(もしくは5) →乙5(もしくは6)
    【合格しづらいといわれる6と5の複数回受験を視野に入れた受験順】
  • B 暗記量や試験対策時間の負荷を調整するパターン
    乙4 → 乙6・3(もしくは2) → 乙1・2(もしくは3)、5
    【全体の暗記量と物質や対応方法の覚え方で混同が出にくいもの同士をまとめて受験するパターン】

試験対策期間は、理系である程度心得のある方なら科目免除を経て最短1~2週間。最初に受験する乙種でも、2週間前後~1か月という方が多いようです。
文系受験者では、それぞれ、この倍程度以上の時間はかけているという方が多いようです。

甲種試験の対策

最難関「甲種」受験では、合格率は大体30%前後。
しかも、その大部分は業務経験者や理系学部出身者です。

ですが、文系出身者でも、施設管理者などとして活躍する企業は多く、しっかりと対策をすれば合格できるだろう試験ではあります。

実は甲種では、「危険物に関する法令」と「危険物の性質並びにその火災予防及び消火の方法」はほぼ、乙種対策に少しだけ難しさをプラスした程度。
もし乙種対策で8割前後取れていたとすれば、ギリギリ合格できる程度の点数は確保できるといわれています。

高校で出題される程度といわれながら、近年さらに難化が進んでいて、大学院生などをも苦しめているといわれるのが「物理学及び化学」の出題部分です。
全45問中のたった10問ですが、ほぼこれを丸ごと落としてしまう方も多いようです。

1類の中で、免除となった科目を除き、1試験科目ごとに60%の得点が無ければ不合格となるため、非常に大きな部分です。

実際には高校物理化学で難関校受験に対応していたレベルよりも一歩進んで、大学一般教養理系レベルの物理化学の基礎科目の全体復習が必要という考えもあります。

技術士一次試験などとも出題範囲は重なるため、甲種受験で理解できていない部分がある方は、甲種の対策テキスト&問題集のほか、技術士関連テキストなども参考にされると良いかもしれません。

甲種対策のテキスト

甲種のおすすめテキストは、定番中の定番、弘文社の『わかりやすい!甲種危険物取扱者試験』などが有名で評判です。

文系で、センター試験程度でしか物理化学を使わなかったという方でも、これを読むだけで無理なく頭に入ります。

むしろ理系で、試験範囲を100%に近い得点率で理解したいという方には、内容に物足りなさすら覚えるかもしれません。

問題集のおすすめは、公論出版の『甲種危険物取扱者試験 ××年版』です。

平成30年版では過去問640問を掲載。
前述の弘文社テキストと併せて、このテキスト部分で、暗記内容チェックなども行うことができ、効率のよい学習につながるでしょう。

すでに甲種受験の前に乙1~6は合格済み。かつ物理化学の基礎には全く問題がなく、物質や法令対策だけでよいという方は、後者の公論出版の書籍だけでも良いかもしれません。

その場合、試験対策は1~2か月程度という方で、この間にしっかり土日をつかって、問題集1冊を3~4回通しで解いているという方ならば得点率は高いようです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

年間30万人ほどが受験する危険物取扱者試験ですが、もちろん重要な国家資格ですから、合格のためにはしっかりとした準備が必要です。

本記事を参考に、資格取得を目指される方々が合格できることを祈っております。

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