私の職場ではコミュニケーションWEEKと題しまして、コミュニケーションの改善を目的とした取り組みを行っています。
その取り組みの一部として「オウム返しゲーム」という、ちょっと変わったゲームを実施しています。
このゲームは、論理的に話をする力を身に付けるため、まずは相手の話を論理的に聴く(ロジカルリスニング)力を向上させるために実施しています。
目的
オウム返しゲームを実施している主な目的は下記の3つです。
- 情報伝達における錯誤を削減すること
- 相手の話の内容を集中して聴き、相手に対して内容を理解している姿勢を示すこと
- 情報をインプットするのみではなくアウトプットすることで、内容の理解度と習得度を向上させること
情報伝達における錯誤を軽減すること
誰しも言葉に関しての価値観や捉え方は様々です。聴者と話者の双方が、互いにどのような意味合いで言葉を使用しているかを理解することで、スムーズなコミュニケーションが可能になります。その結果、限られた時間の中でより多くの情報を共有し吸収することに繋がり、生産性を上げることができます。
相手の話の内容を集中して聴き、相手に対して内容を理解している姿勢を示すこと
相手の話の内容を理解していなければ、自分自身が話をするときに会話の主旨や論点がズレてしまいます。そのため、内容をきちんと理解するには集中して相手の話を聴く必要があります。
そして、オウム返しによって聞き手側が話を聴いている姿勢を示すことで、話者にとっては自分の話がきちんと相手に届いているという安心感を得やすいと言えるでしょう。
情報をインプットするのみではなくアウトプットすることで、内容の理解度と習得度を向上させること
情報をただインプットするだけでは、聞いたことをきちんと理解しているか、それが身に付いているかが客観的には分かりにくいと言えます。
しかし、アウトプットをすることで自身がどれだけその物事を理解しているのか、習得しているのかが客観的に見えてきます。
オウム返しゲームのルール
それでは、オウム返しゲームのルールと概要について解説します。
- 相手の主旨と論理を一致させて復唱する。
- 厳密に同じ言葉でオウム返し(復唱)する必要性はない。
- 重要なキーワードについては相手が使ったボキャブラリーを使う。
- 分からない言葉はその場で相手に確認をする。
1. 相手の主旨と論理を一致させて復唱する。
相手が伝えたいと思っている主旨や論理を自分は理解しているということを相手に対して証明をするためです。
この段階で、自分の意見や主観などを加えるのではなく、あくまで相手の趣旨と論理を拾って、それらを一致させた復唱をしなければ、相手から「自分の趣旨・論理は正しく伝わっているのか」という疑問を抱かれてしまう可能性があります。
2. 厳密に同じ言葉でオウム返し(復唱)する必要性はない。
相手の言葉を一言一句覚えて相手に返すだけでは、話の内容に対する理解の証明にはなりません。自分の言葉を交えて相手に伝えることによって相手に対しての傾聴の意を示し、話の内容を理解しているという証明になります。
3. 重要なキーワードについては相手が使ったボキャブラリーを使う。
上記では、厳密に同じ言葉でオウム返し(復唱)する必要性はないと言っていますが、相手の言葉を使うことによって自分が普段使わない言葉を知って理解することは、自分の語彙の幅を広げていくことにも繋がります。
加えて、相手が重要だと思っている単語を言い換えるのではなく、同じ言葉を使用することで、相手が自分のことを理解しようとしてくれているという協調の意を示し、心理的距離が狭まることに繋がります。
4. 分からない言葉はその場で相手に確認をする。
例えば、相手の話の中に分からない言葉があるまま話を聴いているとします。そうすると、聞き手は相手の発した言葉の意図が汲み取れないまま曖昧な理解をしてしまいます。そのため、言葉の意味を憶測で理解してしまうことにも繋がりかねません。
そうした結果、話者が発した言葉を聞き手が誤った意味で理解してしまい、情報共有においてのトラブルの元に成り得てしまいます。
具体例
オウム返しゲームを実施したときのシミュレーションとして具体例を3つ作成しましたので、ひとつ一つ内容を確認していきましょう。
1. ルールに沿った会話の場合
Aさん
Bさん
【解説】
Aさんの「今日の午後から雨が降るという予報でしたが知っていましたか?」という問いに対して、Bさんは「午後から雨が降るというのと、今週末から気温が上がるという予報は知っています」と一度相手の言葉を復唱し、疑問に返答してから、「ただ、テレビではなくケータイを見て知りました」という自分の話をしました。オウム返しゲームのルールに沿った回答になっています。
2. ルールに沿った会話ではない場合
Aさん
Bさん
【解説】
Bさんの発した言葉には目的語が抜けており、何を知っていたのかの返答ができていません。よって、きちんと会話を聴いていたのかが判断できません。従って、オウム返しゲームのルールに沿った回答にはなっていません。
③間違いを注意したとき
Aさん
Bさん
Aさん
Bさん
【解説】
相手がきちんとオウム返ししていなかったら、その都度指摘をします。指摘された側は何が足りずどんな改善が必要なのかを伝える必要があります。また、その指摘をする際にオウム返しをしないことはゲームのルールの違反にはなりません。
まとめ
「聴く力」を伸ばすために、皆さんもオウム返しゲームを実施してみてはいかがでしょうか?
私自身もこのゲームのルールに沿ったコミュニケーションを実施し、得られたメリットはありました。普段、会話の中でどれだけ目的語を省略し言語化しているのか、その結果、相手がどれほど情報の錯誤に陥りやすい状況にあったのかを再認識できたと共に、今後の改善策の立て方も明確になったことです。
しかし、デメリットとして感じた部分は、オウム返しは相手の言葉に合わせなければなりませんが、相手の話が長い場合にはどうしても相手の言葉を取りこぼしてしまう部分があり、その結果、オウム返しができないという状況に陥ってしまうことです。その部分を改善していくには、相手の話を一旦止めて整理させてもらうという別のプロセスも必要になってきます。
また、オウム返しをすることの心理的な効果として「ミラーリング効果」というものも期待できます。これは、「相手と同じ言動や仕草をすることで、心理的に親近感を持ちやすい。」というものです。
参考 ミラーリング効果とは参考までに、皆さんがこのゲームを実施したらどんな気付きが得られるのかの目安として、実際に弊社の社員が「オウム返しゲーム」を実施した感想を下部に記載します。
ぜひ、皆さんも職場・学校・ご家庭などでオウム返しゲームを実施してみて下さい!
ゲームを実施した感想
社内でオウム返しゲームを実施してみた各社員の感想を聴いてみました。
聴いた内容を復唱することは、インプットした内容のアウトプットをするということです。それは、ただ録音したものを再生するように口に出すのではなく、内容を理解してから再び言語化することであり、そのプロセスの重要性を再認識できました。
それは、復唱をする側にとっては話の理解度を高める意味や、話を記憶に残しやすくする効果がありますし、話す側にとっては自分の話が理解されているかがその場で確認でき、理解の齟齬が生じにくくなる意味があります。
自分にとっても相手にとっても、有意義な取り組みであったと思います。
会話相手の発言を受けて思考し、その上で自らの意見を発するという会話の基本的な流れを再確認できた。またこれまでを振り返ると、私は現在の話題から飛躍した解釈をしたり話題が急に逸れたりしたことも往々にしてあったので、相手やTPOを弁えた上で個人的にはこれからも継続していきたいと感じた。
ただ、このゲームの参加者が基本的には全員仲良しだったことや判定が曖昧だったこともあり、ルール違反への指摘が甘いと思えるシーンが散見された。例えばゲームのルール違反を指摘された側は訂正するだけでその場が終わっていたり、あるいは「お酒を飲んでいる間は一旦オウム返しゲームのルールの適用をナシにしよう」という例外を持ち出したりすることがあった。
私はこのゲームの本質を、傾聴力を鍛えるトレーニングと考えた。相手の発言に耳を傾けることだけに終わらず、会話がミクロ・マクロ的視点で見て論理性を伴っていることを実現することが、このゲームを通じて参加者が身につけられるものだ。相手の話に耳を傾けるシチュエーションは普段の業務の中だけにとどまらず、家庭や学校にいる間や得意先との打ち合わせなどのように、会話する相手がいる時はどのような状況であっても起こりうる。こと社会人なら、お酒が入る場所でしか話せないことが時折ある中で「お酒を飲んでいる間は一旦オウム返しゲームのルールの適用をナシにしよう」という例外を持ち出すことを、私は勿体なく感じた。
オウム返しゲームのルールを一定期間適用するならば、その期間中にお酒をたらふく飲む状況に遭ったとしてもそのルールを適用してみる挑戦をしてみてもよかったと思う。一つの例外がまた別の例外を許容しどんどんルールが緩くなると、ゲームを続行する理由が希薄になる。その考えは意図せず態度や口から出る言葉に現れ、やがて他の参加者に伝播する。今回はルールについて厳格な者がいたから定めた期間まで続いたものの、喝を入れる者がいなければ3日と続かなかったと実感した。
「どうせなら徹底的に」を実践してみると、思いの外発見は多いものだ。
ただ余りにもルールを厳格化させてしまうと面白さがなくなってしまうので、例えば違反回数をカウントして最下位にはちょっとした罰ゲーム(但し、罰ゲームを受ける者が許容できるかできないかのギリギリのラインのもので、且つコンプライアンスに抵触せずハラスメントに該当しないもの。)を執行するくらいのエンターテイメント性をオウム返しゲームに盛り込めたならば、私はもう少し楽しく参加できたかもしれない。
例えば、
Aさん「今日は台風があって電車が止まっていたらしいよ」
Bさん「それってほんと?」
という会話において、後者の「それ」が示す意味には少なくとも下記のような二通りの捉え方がある。
1. 今日は台風があったという情報
2. 今日は台風があったことは前提として電車が止まっていたという情報
二通りの捉え方があることは、会話においてのすれ違いを招く可能性がある。Aさんが2と解釈して、電車の運行状況について話し始めるが、Bさんが言いたいのは1で、そもそも台風の存在を知らなかったため運行状況の話が耳に入ってこないような状況になってしまうのだ。自分は日頃、「それ」が示す対象を明確にするために、「それ」のような指示語の使用は最小限にする必要があると思っている。そのためか、このゲームをすることで、他の人が自分の土俵に上がってくれてとても話し易くなった。今までの自分は、相手の指示語や曖昧な言葉を明確にするために何度も質疑応答を繰り返していた。
相手がオウム返ししてくれることで、自分の負担が軽減されたのだと思う。自分の課題としては、情報伝達の正確さに重きを置きすぎてしまい、会話のテンポが悪くなってしまうことがあるので、会話のテンポが悪くならないように指示語をうまく使っていきたいと思う。
コメントを残す