「ベイカーベイカーパラドクス」をご存知でしょうか?
これは一つのジョークから来ている心理現象のひとつです。
「あの人の仕事がパン屋(baker)であることは思い出せるのに、名前が思い出せない…」
と頭を悩ませるも、その人の名前もまたベイカー(Baker)だった…というものです。
これは、パン屋という概念は様々な他の概念と結びつけやすいのに対し、ベイカーという人名は他の概念と結びつけにくく、記憶を強固にすることができない、という原因によって引き起こされる現象です。
この現象にも表れているように、人間の脳には、何かを記憶する時に既に記憶している他の事柄と関連付けて覚えるという性質があります。
今回は、その性質に着目した「関連付け記憶法」についてご紹介します。
ニューロンの使い回し
コンピューターには難しい、人間の脳の能力とは何だかご存知ですか?
その一つが「連想」です。
僕が見たことのあるメディアアートの一つで「連想をするシステム」というものがありましたが、これがまさに人間の独特の能力である「連想」をコンピューターで再現しようと試みたものでした。
実際に少し触ってみましたが、確かにある程度近しいものは感じたものの、なかなか人間の行うような連想とは異なる、この場合は何が「正しい」というわけでもないのですが、まだ違和感を覚えてしまうようなレベルではありました。
では、この「連想」というものが何故人間には可能なのかと言えば、人間の脳においては限られたニューロンの数を有効活用するために、同じニューロンをいくつもの異なる事柄に対して使いまわして記憶しているからです。
そのため、連想が可能になりますし、また、冒頭に述べたように何かを記憶する時に他の事柄と関連付けて覚える、という脳の性質があるのです。
「関連付け記憶法」の考え方
ですので、勉強する際には単体で物事を覚えようとはせず、それに関する他の事柄も一緒に覚えるように心がけるとよいでしょう。
例えば歴史であれば、ある同じ年代の日本史と世界史の流れを比較してみると面白いかもしれません。
文化でも経済でも、国内外の情勢を比較するとその国の盛衰が俯瞰的に読み取れるはずです。
例えば、1789年のフランス革命のとき、日本では何が起きていたかと言うと、松平定信による寛政の改革の最中で「棄捐令」が発令されたのがこの年です。
では、その当時の日本とフランスの文化・社会情勢などを比較してみると……、或いは、フランス革命といえば「人権宣言」ですが、そう言えば100年後の1889年には日本では大日本帝国憲法が発布され、これにおいて臣民の人権は……など、「連想」のレベルでも構いませんから、他のことと積極的に関連付けて記憶していきましょう。
あるいは英語であれば、接頭辞「 ad 」に着目してその意味を理解した後で、「 ad 」から始まる単語にはどのようなものがあるか考えてみたり、辞書で探してみるのも面白いでしょう。また、それで登場した単語については各品詞への変化もセットで見ていきましょう。
興味が広がれば理解しようとしますし、理解が深まれば更に興味が湧いてくるので、それに関連した知識の定着も確かなものになりやすいです。
また、似た名前の記憶法に「結びつけ記憶法」というものもあります。
こちらは「関連付け記憶法」とは異なり、本来は関係のないもの、歌や絵などと結びつけて替え歌や落書きを作ることで記憶するというユニークな方法ですので、よろしければこちらもご参照ください。
「関連付け記憶法」の効果
「関連付け記憶法」が脳の性質という観点で見た時に、合理的であるというのはご説明しましたが、具体的にはどのような効果があるのでしょうか?
思い出しやすい
1つは、関連付けて記憶しておくと思い出しやすい、という事が挙げられます。
冒頭で挙げた例ですが、ちょっとケースを変えて「パン屋ではないベイカーさん」を覚えることにしてみましょう。
あくまでベイカーさんという名前は、ご説明したように記憶のしにくい「人名」という情報です。
そのため、ただ単純な名前のまま覚えようとするのではなく、他の事柄と関連付けるのです。
例えば、自分の知っている別のベイカーさんと関連付けてみる、このベイカーさんの仕事を聞いておいてパン屋との結びつき(或いはギャップ)に注目してみる、など何でも構いませんので、他の事柄と関連付けます。
そうすれば、その他の事柄が記憶を引き出すためのキーとなって、思い出そうとした時に役に立つため、思い出しやすいのです。
これに限らず、記憶に関して重要なのは「覚えていること」自体よりも「思い出せるかどうか」なので、この点は非常に大切と言えるでしょう。
長期記憶化できる
次に挙げられるのは、その事柄を長期記憶として保持することができる、ということです。
覚えた事柄を長期記憶にするには、何度も想起することが必要になります。
その点、関連付けて記憶された事柄は、その事柄自体を思い出そうとした時だけでなく、紐付けられた他の事柄について考えた時に(無意識的でも)一緒に思い出されるため、想起される回数が増加し、そのことによって長期記憶として保持されやすいと言えるでしょう。
カリフォルニア大学デービス校の研究者も、人間の脳においては何かを想起した時に、それに関連付けられた記憶も強化されるという研究結果を発表しています。
短期記憶は海馬において、長期記憶として保持されるか否かが振り分けられるのですが、その「審査期間」は約一ヶ月と言われています。
この間に想起されなければ、長期記憶として保存される可能性は低くなってしまうわけです。
そのため復習が重要なわけですが、関連付け記憶も同時に想起されるならば復習の効率を高めることができ、長期記憶として保持しやすいと言えるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回のポイントは以下の三点です。
- 人間の脳のニューロンは複数の事柄に使い回されている!
- 関連付けて記憶することで思い出しやすく!
- 「関連付け記憶法」で覚えれば長期記憶にしやすい!
記事中でも少し触れましたが、「関連付け記憶法」は興味も喚起しやすいので、より楽しく勉強を進めることもできます。
僕も歴史の勉強をするときなどには、一見余計な情報に思えても様々な関連事項を調べながら、なるべく楽しく勉強していました。
みなさまの勉強も、より充実したものになり目標も達成できますよう!
また、こちらの記事もよろしければご参照ください。
(参考)
PNAS | Neural reactivation in parietal cortex enhances memory for episodically linked information
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