突然ですが、みなさんは都道府県名や県庁所在地はしっかり覚えていますか?
「そんなの当たり前だよ!」と思う方も多いと思いますが、「ちょっと自信ないかも……」と思う方も意外に少なくなかったりするようです。
ちなみにこの都道府県名・県庁所在地の名前、いつ習うかというと小学校の四・五年生です。
都道府県の数は47、都道府県名と異なる県庁所在地名が18ありますから、暗記量としてはなかなかの量ですが、覚えている場合はこの小学生の頃から今まで(ど忘れなどを除けば)ずっと覚えている、という方がほとんどではないでしょうか?
何故これだけのことが覚えられるのかといえば、ここには年齢の問題があると言えるでしょう。
かと言って「若くてフレッシュな脳だから、記憶力もまだよくて…」という単純な話でもないのです。
今回は、年齢によって異なる脳の特徴と、それに応じた適正な勉強の方法について詳しくご説明していきます。
目次
脳科学における丸暗記
例えば、都道府県名や県庁所在地のようなものは、今回の記事の掲題のように「理解」して覚えるような種類のものではありません。
小学生の頃に覚えた際にもただひたすらに唱えたり、白地図に何度も書き込んだり、といった方法でとにかく反復して所謂「丸暗記」をしたという方がほとんどでしょう。
脳科学において、こうした丸暗記は「意味記憶」という記憶に分類されます。
言葉の意味についての記憶がその具体例なわけですが、トマトが何故トマトという名前なのか、というのは語源なんて知らずとも「ただ単にそういうもの」として覚えるわけですから、まさに丸暗記です。
さて、こうした意味記憶の能力のピークは、意外なほど早く訪れます。これは、10歳前後と言われており、小学生四・五年生にあたります。
実は、都道府県名・県庁所在地の例を挙げたのはこれが理由で、意味記憶能力がピークの時にこれらを覚えさせるのは、脳科学的に見ると非常に合理的であるということになります。
では、やはりこれ以降になると人間の記憶力はどんどん悪くなってきてしまうのでしょうか。
しかし、実はそういうわけではないのです。
歳を取っても記憶力は落ちない
アメリカ・タフツ大学のアヤナ・トーマス教授の実験では、18〜22歳の若者たちと60〜74歳の年配者たちに同じテストを実施しました。
内容は、まず単語リストを一つ覚えさせて、その後にまた別の単語リストを見せ、二番目のリストの単語のうち、どれが元の単語リストにもあった共通のものなのかを当てさせる、というものでした。
試験前に「これは単なる心理学的なテストである」という説明を行った上で、2グループの結果を比較すると、正解率は両者ともに約50%で、結果に優劣が見られなかったのです。
しかし、試験前に「普通、この記憶試験では高齢者のほうが成績が悪くなる」という説明をした上で行うと、高齢者たちの正解率が低下、30%ほどになってしまいました(若者たちの結果は変わらず)。
つまりこの実験においては「歳を取ったら記憶力が落ちる」というのは単なる迷信のようなもので、しかもそれを妄信することは記憶力にとってマイナスだということになってしまいます。
加齢による記憶の種類の変化
とは言え、先程ご説明したように意味記憶のピークは10歳前後だということが分かっていますから、それ以降においては意味記憶能力は低下していくことになります。
しかし、意味記憶とは記憶の一分類に過ぎません。その他にも記憶の種類はあるわけです。
つまり、意味記憶の能力が低下しても、代わりにそれとは異なる記憶の能力が高まりを見せていくため、記憶力を総合的に比較すると年齢を重ねても低下しないというわけです。
では、年齢を重ねるとどのような記憶が得意になっていくのかと言えば「エピソード記憶」という記憶です。
これは、自分が経験した出来事の記憶です。言ってみれば思い出にあたるものがこのエピソード記憶になります。
しかし、そう聞くとエピソード記憶は勉強などには活かせないような種類の記憶に感じますが、そんなことはありません。
理屈を理解することでエピソード記憶に
ずばり、勉強したことをエピソード記憶として保存するための方法は「理解する」ことです。
単に「AはBである」ということを暗記するのではなく「何故AはBなのか」という理屈を理解すれば、そのことはエピソード記憶となり、能力の低下している意味記憶よりも強固な記憶となりえます。
それは、何故なのかを理解することができればその「理解した」という出来事がエピソード記憶となるからです。
さらに、その理解したことを他人に説明したなら、それもまたエピソード記憶となり、より強固になるでしょう。
こちらの記事でも「人に教えることが最強のアウトプット」であるとご紹介しています。
理屈を理解すれば勉強の効率も向上する
例えば、中学三年生の数学で習う「乗法公式」をみなさん覚えているでしょうか?
以下の5つを覚えるように言われます。
- \((x+a)(x+b)=x^2+(a+b)x+ab\)
- \((x+a)^2=x^2+2ax+a^2\)
- \((x-a)^2=x^2-2ax+a^2\)
- \((x+a)(x-a)=x^2-a^2\)
- \((ax+b)(cx+d)=acx^2+(ad+bc)x+bd\)
僕は、中高生向けの塾で講師をやっていた時に、この単元に差し掛かった際、教科書にこれが書いてあって「え?」となってしまいました。
何故なら、教える立場である僕がその「5つ」なんて覚えていなかったからです。
勿論、覚えていなくてできなかった、という話ではありません。。
僕にとって「これら5つの乗法公式は1つのもの」だったのです。
本質的には同じこと
そもそも、これらの乗法公式は何故成り立つのか、と言えば、分配法則に従って展開すると自然とその様になるから、です。
であれば、分配法則を理解していれば、そもそも乗法公式なんて暗記せずとも計算できるわけですが、暗記した方が速く計算でき、またこの乗法公式の後に習う因数分解において利用するために、これを覚えることが要求されるわけです。
では5つ覚える必要があるのか、というとそんなことはなく、(1)〜(4)までは(1)の派生系、(5)に関しては単なる分配法則の延長と考えることができます。
(1)の公式を(2)の計算に当てはめてみれば、(1)における\(a+b\)は(2)においては\(a+a=2a\)になるわけですから、二番目の項は\(2ax\)となります。
また(3)については、(2)の\(a\)が負の項になっていると考えればいいだけですから、(2)と同じということになります。
そして(4)についても、(1)における\(a+b\)は(4)においては\(a+(-a)=0\)となるため、二番目の項は\(0x\)になってしまい、最後の項\(ab\)は(4)において\(a\times(-a)=-a^2\)となり、結果的に(4)の公式の結果と同じになります。
(5)に至っては、分配法則に従って同類項をまとめればこうなるのですから、当たり前の話です。
理屈を理解すれば覚えなければならない量が減らせる
上記の例において、実際に僕は乗法公式の覚えなければいけない量を大きく削減することができましたし、自分の生徒たちにもそのように教えていました。
つまり理屈を理解していれば覚えなければいけない量を減らすことができ、勉強の負担を減らせますし効率的に勉強を進めることができます。
逆に言えば、理解を伴わずに暗記で乗り切ろうとすると、覚えなければいけない量を不要に増やすことになってしまいますし、先程述べたように、10歳を過ぎての意味記憶能力は衰えてきていますから、ただただ苦労を増すことになってしまいます。
理解していれば「使える知識」になる
また、少し違った観点から「理解する」ことの意味について触れてみたいと思います。
例えば先程挙げたような都道府県名などに関しては、これはもうただ暗記するしかないもので、また暗記していればそのまま「使える知識」と言えると思いますが、現実にはそうではない場合も多いということです。
勉強において言えば、単なるマークシート的な多肢択一問題だけでなく、記述・論述問題や、ロジックを組み立てていくプロセスに焦点を当てた問題なども、実際の試験では出題されますし、その比重はかつてと比べて大きくなってきていると言えるでしょう。
また、この情報化社会においては手元の端末ですぐに検索して、必要な情報にアクセスすることができます。
自分の頭で暗記しているのにスピードでこそ敵いませんが、正確性も高いですし、その情報の共有も手元ですぐに行えます。
一方で、情報にアクセスすることができても、その情報が理解できなければ意味がありません。
普段から理屈を理解することに慣れていれば、一見理解できないような内容が書いてあっても、現状においてどの部分が理解できないのか、それを理解するために何が必要なのか、これまで学んだ・経験したことは活かせないか、などといったように、理解するための各プロセスに着目して一つずつ検証・問題解決をすることができるでしょう。
まとめ
今回は、理屈を理解するということの重要性についてご説明しました。
まとめると、ポイントは以下の三つです。
- 年齢を重ねても記憶力は落ちない!
- 10歳過ぎたら「意味記憶」より「エピソード記憶」へ!
- 理屈を理解すれば効率的に使える知識が手に入る!
以上、いかがでしたでしょうか?
みなさまの勉強がはかどり、目標の達成につながることをお祈りいたします!
(参考)
毎日新聞社 | エコノミスト 2011年12月12日号
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