「昨日勉強したばかりなのに…」
など、試験中に焦ったことはないでしょうか?
アメリカの生物医学研究所、ソーク研究所によれば人間の脳の容量は約1ペタバイトとのことです。ペタというのは約1,000テラのこと、そのテラは約1,000ギガですから、より身近な単位で言えば約100万ギガバイトの容量が人間の脳にはあるということです。
そんなに容量があるはずなのに、冒頭に述べたようなことが試験中に起こってしまうのは、記憶がしっかりと脳に定着していないことが原因の一つです。
今回はそんな事態を避けるべく、掲題の通り、学習した記憶を定着させる方法について考えていきます。
記憶は学習を繰り返すことで定着する!
まず、何かを理解して記憶にインプット、そして学習を繰り返しさらに問題演習などを通してアウトプットすることが、非常に効果的な方法であることは良く知られています。
この方法では、アウトプットのために記憶を読み込むごとに情報量を増やし、さらに記憶として自己にプールされている状態を強め、思い出しやすく且つ多くのことに適用できるようにすることができます。
この「繰り返す学習方法」によって覚えたり取り組んだことが記憶に残り、使える状態になっていることを一般的には「学習定着効果」などと呼んでいます。
ウェブサービスによる学習や、アプリ、問題集による演習などは、この「繰り返すタイプの学習から得られる学習定着効果の面で、大きな影響を与えるもの」としてPRされているものが多いようです。
学習定着効果の度合いは、問題の正答率や単位時間内達成率――俗にいうミニテストや達成度テスト、一般の定期テスト他各種テストを通じてもある程度間接的に測ることができます。
ですが場合によっては、その紙面やアプリ、そこで掲載問題文を丸ごと覚えきるほど解ききってしまい「正直身についているのが理論や方法論といった部分なのか、それとも解答丸ごとなのか分かりにくくて張り合いが少ない」といったこともありますよね。
神経レベルでのアプローチ
さて、それとは別に、単に「記憶と取り出し」という面に関して言えば、実は神経や記憶の連関レベル、脳の中の神経回路と分子経路の働きからも知ることができます。
2018年12月米国科学雑誌『Cell Reports』では、東京都医学総合研究所 学習・記憶プロジェクトでの研究成果による、「反復学習が、記憶を蓄える神経細胞集団を形成するメカニズム」が紹介されています。
例えばショウジョウバエは、何かを学習した際に、それについて間隔を空けて反復学習を行わなければ、長期記憶は形成されないことが分かったのです。
間隔を空けた反復学習において、学習した情報はそれが入力された神経細胞の中でだけ転写サイクルを形成し、長期記憶を蓄えるための神経細胞集団「エングラム細胞」を形成します。
つまり、反復学習によって長期記憶化することができるということが、神経レベルでも判明したのです。
これ以外にも、脳の活動測定にはさまざまなアプローチ方法があり、医学系脳科学や製薬生命工学系、教育や児童心理学、情報工学をはじめ様々な分析や研究結果があります。
これらの本旨や切り口の違い、特性をより深く知ることで、反復学習のために最適な外部からの刺激~学習タイミング設定へのフィードバックも、将来的には行いやすくなるかもしれません。
「記憶」の性質や特徴からアプローチして記憶定着率を上げる!
反復学習による学習定着効果~記憶とその応用を考える時、忘れてはいけないポイントがあります。
それがよく聞く「短期記憶」や「長期記憶」といった、「記憶」そのものの種類です。
見たもの、聴いたもの、書いたもの……また時には実技で必要な動きの連関や身体のポジションなど、「何かの情報が記憶に残り使える状態になる」には、その記憶が意識のどのあたりに残っていて、どんな意識レベルや手続きで取り出せるのかといったことを知ることも重要なポイントです。
記憶の種類
その瞬間だけのものか、ある程度の短期間残るか、長期間いつまでも残るかといった違いによって「感覚記憶」「短期記憶」「長期記憶」などと分けられます。
長期記憶に残るものは、必ずしも反復学習や思い出しがなければならないというわけではありません。
ですが、感覚記憶を思い出すか読み込み直すなどで反復強化すれば、短期記憶として保持され、さらに続けていくと長期記憶として残りやすくなるといった研究成果は、「エビングハウスの忘却曲線」といった研究結果とともに一般的に広く知られています。
記憶を長持ちさせるために
例えば、参考書など基本書を繰り返し読んで覚え、ノートに書き、問題演習をその日1日繰り返して定着したと思ったら、また数日後(A日後)に定着確認。
よくできていれば、その日数の数倍(A日間 × n)、できていなければまた同じ程度の期間をあえて定着確認日を設定し、次の復習サイクルと、別の新たなインプットとアウトプット日をプラスしていくとよいでしょう。
復習サイクルについてはこちらの記事もご参照下さい。
インプット時のアプローチ
また、感覚記憶や短期記憶については、即時に強い衝撃や入出力エネルギーに相当する刺激を与えたりすることで、情報が錯綜したり消されたりして記憶に残らなくなることや、記憶の中身が差し替わりやすいことなどはよく知られています。
ですが逆に記憶に残すために、精神的、あるいは物理的に外的な振動や電気刺激を上回る刺激を与えること、活動変位が大きな刺激を送ることで、より記憶に残したいものだけを効率的に覚えさせる方法などがあることも、現代では広くよく知られるところです。
例えば以下のようなことが挙げられます。
- 赤ちゃんの喜怒哀楽による学習
- 人へのボディタッチ
- 暗記時の指回しや頭の皮膚への指での刺激など
- キーボード入力
- 機器の操作
- 踊りの振り付けなど
1〜3は、痛みや接触などによる危険性を意識下に刷り込むときにも使われます。
3のように、思い出しやすくなるといった特性を利用して、記憶としてあまり呼び出しにくいものを優先的に覚えて呼び出すきっかけとして、特定の部位や方法で刺激を与えることによる記憶法なども存在します。
4〜6は、何かをしていると自然に全体の意識や思い出す順、動作の順などを体に叩き込ませることで、自然と思い出して動作までを行わせるものです。
いわゆる「身体で覚える」に当たると言えるでしょう。
記憶に利用される脳の部位
また、もう一つ効果があります。
身体の他の部位連関などで覚えることから、一般のテキストなどによる暗記とは、脳の中で利用されている部位も異なります。
そのため、徐々に逐次判断するために脳を使う部分を縮小させていき、記憶を整理することで新たに意識して記憶する領域を増やす時にもよく利用します。
こういった特性を活かして、例えば暗記中に指を押す、ガムを噛む、割り箸を噛む、足の側面を圧すなどしながら記憶させることで、意識的に普段の暗記とは違う脳の部位を利用して記憶することができます。
暗記に疲れてこれ以上覚えられないという時、またどの科目の問題を解いても同じ脳の部分だけが働くように感じられて、脳や神経がショートしたイメージになったり、あるいは頭痛や激しい疲労を感じられるという方では、こういった「体への刺激を使いながら暗記」といった方法も良いかもしれません。
記憶の種類としては、長期記憶の中でも「手続き記憶」と呼ばれるものに分類されます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
せっかく勉強しても試験などの実践の場において実際に利用できなければ、残念ながら勉強したことは無駄になってしまいます。
そうならないためにも、ご紹介した方法を利用して記憶をしっかり定着させられるようにしていきましょう。
(参考)
Salk Institute for Biological Studies | MEMORY CAPACITY OF BRAIN IS 10 TIMES MORE THAN PREVIOUSLY THOUGHT
東京都医学総合研究所 | 反復学習が記憶を蓄える神経細胞集団を形成するメカニズムを解明
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