勉強や記憶にまつわる脳科学の研究結果まとめ

脳

「体で覚える」なんて言葉もありますが、私達はどこで記憶をするか、と言えばやはりです。

体が覚えている、という感覚も実際にありますが、その場合でも記憶しているのはあくまで脳であるわけです。

勉強とは何かを学ぶことですから、記憶に残っていなければ意味がありません。
それであれば、勉強をより効率的に無駄なく行うためには、脳科学の研究結果を活かさない手はないでしょう。

今回は、勉強や記憶にまつわる脳科学の研究結果について、様々な観点からご紹介します。

人間の脳の特徴

そもそも、人間の脳には他の動物などと比べてどのような特徴があるのでしょうか。

現在の人類の脳の大きさは,最初期のヒト族や現在の類人猿の脳と比べて約3倍です。

もちろん、脳のトータルのサイズが大きければイコール知能が高いといえるわけではありません。
脳と一言に言ってもそれぞれ様々な役割を持つ領域に分かれており、どの部位が発達しているかによってその能力も異なってきます。

例えば、現在の人類の祖先ではないとされているヒト族である、ネアンデルタール人は現在の人類よりも脳が大きかったとされています。
現在の人類の脳のサイズが1,500ccほどであるのに対して、彼らの脳は1,600ccあったとされているのですが、4万年前に絶滅してしまっています。

しかしネアンデルタール人の脳においては、現在の人類のそれと比べて前頭葉が小さいということが分かっています。相対的なサイズで言えば40%も小さいと言われています。

前頭葉とは、脳の中でも情報処理・整理や判断、或いは自分を客観視したり、感情や言葉を司る部分とされています。それによって、脳機能の違いが生まれ、現在の人類種であるホモ・サピエンスとの差が生まれてしまった一因となったのではないでしょうか。

また、チンパンジーなどの人間と近い霊長類の脳と、人間の脳を比較してみると、人間は特に抽象的思考や言語など高次の認知機能に関与する、大脳新皮質領域が大きくなっていることが分かりました。

しかし、今でこそそういった能力は求められ、そういった部分の記憶能力も必要ですが、かつての狩猟時代においてはむしろ空間を把握する記憶の方が必要とされたため、脳には現在においても空間記憶に強い傾向があります。

その能力を活かした記憶法が、世界最古の記憶法とされる「記憶の宮殿」でしょう。

世界最古の記憶術!?莫大な情報を記憶することを可能にする「記憶の宮殿」とは?

また、動物ではありませんが、いま注目を集めている分野である人工知能(AI)との比較も考えてみましょう。

現在の時点で、人工知能、或いはコンピューターの方が、人間と比べれば処理速度・記憶容量ともに圧倒的に優れています。

しかし、一方で人間の脳にできてコンピューターには難しいことの一つが、連想や空想などです。

これが可能なのは、逆説的ですが人間の脳には限界があるから、です。
どういうことかと言うと、人間の脳のニューロンの数には限りがあるため、一つのニューロンを複数の記憶に使いまわして利用しているのです。

そのため、とあることを想起した時に、それと直接関係がないことを連想したり、必ずしも論理的につながっていなくても空想したり、ということが起きるのです。

この、人間の脳の特徴を利用した記憶法が「関連付け記憶法」です。

記憶の定着と能率化を図る!「関連付け記憶法」が有効な3つの理由

右脳と左脳

また、脳には右脳と左脳があるのはご存知でしょう。
この二つの違いについて考えてみたいと思います。

右脳と左脳に関する俗説

右脳は左半身と結びつき、感情やイメージなどを司ると言われ、左脳は右半身、また論理的な思考を司ると言われています。

これに関して、間違った俗説としてあげられるのは、右脳だけが直感的で、左脳だけが論理的な思考をするわけではなく、あくまで右脳と左脳の能力を比較した時に右脳の方が直感的能力に、左脳の方が論理的能力に優れた「傾向」が見られた、というだけです。

例えば論理的な思考をする際に、左脳の方が右脳と比べて活性化する、などの傾向は見られるのでしょうが、論理判断の際に左脳だけで考えている、とするのは早計です。

また俗に言われる「右脳人間」なども科学的には根拠のない俗説です。右脳と左脳の働き・機能分化に個人差はありません。
そのため、直感的な判断をする性格の人や、芸術的センスのある人などを、利き手のような感覚で「右脳人間」としたり、論理的な人や真面目な人を「左脳人間」とするのも、言ってしまえば血液型占いのようなものでしょう。

記憶において

では、記憶に関して右脳と左脳にはどのような特徴があるのか、というと、実は右脳の方が左脳よりも記憶容量に優れています。処理速度も右脳の方が格段に速い、とする研究もあります。

それであれば、何かを勉強・記憶する際には右脳をうまく活用した方が効果が期待できる、というわけですが、教科書や問題集などの文字情報に基づいた思考は、基本的には左脳優位となるようなものです。つまり、そこには何か工夫が必要になります。

右脳に着目した勉強方法は以下の記事をご参照下さい。

効果的な暗記を目指す!右脳を使った暗記方法3選!

記憶の種類

さて、では脳の中に記録される記憶そのものについてはどのような種類があるのでしょうか。

これは、まず大きく分けると感覚記憶短期記憶長期記憶の三つとなります。

感覚記憶

感覚記憶は、普段私達には「記憶」としても認識されないレベルのものです。

これは、外部からの刺激を受けたときに、最大でも1〜2秒ほどしか保持されない超短期的なもので、感覚器官それぞれにおいて一瞬だけ保持されるようなものです。この中でも意識を向けられたものだけが、これからご説明する短期記憶・長期記憶として保持されるに至ります。

短期記憶

短期記憶は、心理学者ジョージ・ミラーによって提唱された記憶の二重貯蔵庫モデルにおける一区分です。

マジカルナンバーと言われる「 7±2 」がその容量と言われ、非常に小さい大きさです。この数字が、電話番号をハイフンで区切る根拠の一つでもあり、10ケタ、11ケタを区切らずに覚えようとするのは大変ですが、3, 4ケタずつに区切ってそれぞれ別々のものとして記憶すれば、ダイアルするまでの間記憶を保持できる、というわけです。

この短期記憶に関しては、比較的よく使われる言葉ですから聞いたことがあるかもしれませんが、注意しなければならないのはこの短期記憶の保持期間は、たったの数秒から十数秒だけということです。

もちろん、これを過ぎたらすべてが忘却されてしまうわけではなく、「リハーサル」を行うことで保持期間を伸ばすことができます。これはその事柄を復唱したり、頭の中で唱えたりなどを繰り返すことです。

「リハーサル」を勉強に活かした方法である「繰り返し勉強法」について、以下の記事でご紹介しています。
掲題の通り、これは小学生に出される宿題などにも利用されている方法でもあります。

小学生の宿題から考える、繰り返し勉強法の効果とは?

長期記憶

長期記憶は、読んで字の如しですが記憶を長時間、それも大容量保存するシステムです。
先述の記憶の二重貯蔵庫モデルにおいては、一旦長期記憶となった記憶はもう消えることはないとされました。

しかし、これには異議を唱える方も多いでしょう。
一度覚えたら二度と忘れないなんて、そんなことが本当であれば勉強などで苦労したりすることもないでしょう。

これについては三つの説があります。

長期記憶の忘却についての三説

記憶の減衰説

これは私達の感覚にも近いものと思われますが、時間が経過するにつれて段々と記憶が失われていくというもので、経過時間が長くなれば長くなるほど、忘却量も大きくなるというものです。
また、細かい部分や馴染みがない部分が忘れられたり、つじつまの合わない部分が合うように改変されたりなど、そういった変化が起こることも分かっています。

記憶の干渉説

これは、他の記憶によって干渉を受けて、それによって忘却が進むという考え方です。これについては、同じ経過時間で、覚醒状態と睡眠状態を比較した結果、覚醒状態の方が忘却が進んでいたことを根拠に提唱されたものです。
睡眠状態では新たな記憶ができることはありませんから、覚醒状態で新たに記憶が追加されることによって、忘却が進んだと考えたわけです。
これには、とある記憶について、それよりも過去に経験した記憶によって干渉を受けるというものと、それ以降に経験した記憶によって干渉を受ける二種類があるとされています。

検索失敗説

これは他の二つとは異なり、記憶自体は忘却されていないものの、その記憶を適切に検索できず、アクセスができていないとする説です。
ある単語を記憶する際に、そのカテゴリー名を検索の手がかりとして与えた場合と与えなかった場合を比較した実験において、手がかりを与えた方が記憶の再生がよく行われた、という結果に基づいています。
また、別の実験では、記憶時と再生時において、シチュエーションを近しくした方が成績が良かった、という結果も得られています。同一のシチュエーションが、検索の手がかりとなったということです。

この説に基づいて、勉強の方法について考えたのが、以下の記事です。

「覚えられない…」は勘違い?!あらゆる学習に適用できる1つのポイントとは?

長期記憶の種類

さて、長期記憶についてご紹介していましたが、実は長期記憶の中にも更に細かい分類が存在します。
陳述記憶非陳述記憶です。
そして、さらにその中でも細かく分類できますので、そちらについてもご紹介します。

陳述記憶

陳述、つまり言葉で表現できる記憶のことを指します。
これは意味記憶エピソード記憶の二つに分けられます。

意味記憶は、言葉の意味についての記憶に代表される、単純な丸暗記に近い記憶です。
AはBである、ということを単純に覚えることは意味記憶に当たります。

次に、エピソード記憶は自分の体験や出来事に関しての記憶です。
思い出などはこのエピソード記憶に類されます。

この、意味記憶とエピソード記憶は、同じ陳述記憶の中ではありますが、一つ大きな違いがあり、それは年齢との関連です。

意味記憶は、幼少期に優勢な記憶なのですが、そのピークも早く10歳前後と言われています。

反面、エピソード記憶に関しては、年齢を重ねるほどに得意になっていく記憶です。
この点については、以下の記事をご参照ください。

丸暗記は小学生まで!自分の記憶能力を適正に活かすための、理解のすゝめ

非陳述記憶

名前の通り、言葉で表現できない記憶となります。
非陳述記憶には、手続き記憶プライミング古典的条件づけ、が含まれます。

手続き記憶は、何かを行うときの手続き・やり方についての記憶です。
つまり、冒頭で挙げた「体で覚える」はこれに当たります。「体で覚えれば忘れない」とよく言われるのは、このためだったのです。

手続き的記憶を利用した効果的な暗記方法

プライミングは、先行する情報に後続する情報が引っ張られるような記憶のことです。
例えば果物の話をしている時に、緑という言葉や色そのものからマスカットや、メロンやスイカなどが連想されやすくなるようなことを指します。
これは、それぞれの言葉・物事が互いにネットワークを形成しているためと考えられています。

古典的条件づけに関しては「パブロフの犬」の例のような、条件反射的な記憶です。
「パブロフの犬」にようにや、或いは梅干しを見ると酸味が想起されて唾液が出る、というような記憶も、忘却されにくい長期記憶に分類されるということですね。

長期記憶への移行

さて、ここまで記憶の分類について見てきましたが、感覚記憶・短期記憶に関しては保持期間が短いため、勉強ということに関しては、長期記憶へ移行させなければ有用性がないであろうということがお分かりいただけたと思います。

では、その移行は如何にして行われるのかと言うと、脳の中の海馬という部位において行われます。

海馬は、リハーサルを経て保持期間を長くされた短期記憶を、約一ヶ月ほど保管し、その間に、大脳新皮質へ記憶を送り、長期記憶へ移行させるかどうかを判断します。

つまり、この一ヶ月が勝負ということになりますが、では如何にしてその間に、海馬に「長期記憶へ移行させるべき」と判断させればよいのでしょうか?

長期記憶への移行をテーマにしたのが以下の記事となります。

覚えたことは忘れない!長期間記憶できる勉強法とは?

脳波について

私達の脳において生じている電気活動を、電極で記録したものが脳波です。

脳波はその周波数によって5種類に分けられます。

  1. デルタ波
  2. シータ波
  3. アルファ波
  4. ベータ波
  5. ガンマ波

これら5種類の脳波は、脳の活動状態に応じて異なった種類のものが対応しているのですが、この脳波に着目することで、学習効果を高めたり、集中力を高めることができると考えられています。

脳波については下記の記事にて詳しくご紹介・解説しております。

学習効果を大幅に上昇させる!?5種類の脳波と勉強との関係

まとめ

いかがでしたでしょうか?

勉強について、関わりのある脳科学的な研究結果をご紹介いたしました。

なお、勉強とこういった研究と言えば、有名な「忘却曲線」を彷彿とされたかもしれませんが、実は「忘却曲線」に関しては発見者のヘルマン・エビングハウスが心理学者であるということで、一旦ここでは取り上げておりません。

ただ、勉強に関して、ということであれば、非常に重要な理論の一つですので、忘却曲線に関して詳しくご紹介している下記の記事も、ぜひご参考にしていただければと思います。

忘却曲線の理論から考える 効果的な記憶方法と勉強術

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