日本の英文法重視教育は無駄ですか?

英語

「日本人は英語が話せない。それは学校で文法ばかり教えているからだ。」
この話は半分正解・半分不正解です。

たしかに日本の教育現場では英文法が重視されがちです。一方でスピーキングやライティングなど、英語をコミュニケーションツールとして使うための訓練は少ないです。しかし、文法は言語学習で、なくてはならない武器のひとつ。決しておろそかにできないスキルです。

では英語を学ぶ上で、英文法はどれくらい重要なのでしょうか?こちらの記事では英文法の重要性を、言語習得プロセスの観点と筆者の言語学習の実体験からひも解いていきます。

第二言語習得プロセスから見る文法の重要性

第二言語習得プロセスとは、人が母国語以外の言語を学ぶときの道筋です。アメリカの言語学者Susan M. Gassが提唱して以来、多くの言語教育現場で取り入れられています。プロセスは以下のようになっています。

<Input>
1.気づき:意識的にインプット

2.理解:段階1…言葉の意味をなんとなく把握 / 段階2…単語や文法の知識を使って、情報の形式や機能まで把握

3.内在化:理解した言葉を検証

4.統合:理解と内在化によって、言葉が長期記憶へ移行
<Output>

「気づき」の例は、意識的に行うリスニングです。聞き流しではなく、しっかり聴く勉強法のことを指します。この「気づき」でインプットされたものは短期記憶へ保存されますが、これはすぐに忘れてしまう段階です。

理解では言葉の意味をとらえます。「なんとなくこう言っているのかな…?」とわかるレベルと、「appleだから冠詞はaじゃなくてanだな」と把握できるレベルの2段階があります。文法が特に必要となるのは2番目のプロセスです。

意味の理解後は、それが本当に正しいかを検証する内在化が起こります。例としては、実際に誰かと会話をして意味が通じるか確認することや、問題集を解いて答え合わせをしてみることがあります。

最後が統合です。この統合まで行って初めて、言葉は長期記憶に保存されます。つまり「しっかり覚えた」状態になるのです。

理解1段階目の「なんとなく分かる」というところまでは、文法の知識が身についていなくても到達できます。しかし、そのような言葉はすぐに忘れてしまったり、真に理解したりすることができません。言葉は統合まで行かないと覚えられず、統合は理解なしに起こらない。そして、理解には文法が必要。結果として文法の知識がない場合、第二言語は身につかないのです。

スピーキング習得プロセスから見る文法の重要性

次に日本人が最も苦手とするスピーキングの習得プロセスを見てみます。スピーキングはとにかく話すことが重要と思われがちですが、ここにおいても文法は必須です。スピーキングのプロセスは、以下の3段階に分かれます。

1.概念化:話したいことを決定
2.文章化:単語や文法の知識を使って文章を構成
3.音声化:作った文章を発声

スピーキングができない状態とは、1から3の中につまずく部分があることです。文法は2の「文章化」に深く関わっています。

簡単なコミュニケーションであれば、単語を並べるだけで言葉は通じます。例えば「toilet where」と言えば、「ああ、この人はトイレを探しているのね」と相手に理解してもらえます。しかし、もっと複雑なことを言いたい場合、単語を並べるだけでは難しいです。そのようなときに文法にそって文章を組み立てる力が必要となります。

文法をやっているだけでは話せるようにならない。これは事実なのですが、文法の知識なくして話せるようにはならない、というのもまた事実です。

実体験から断言・文法が分からなければ覚えられません

最近は良質な言語学習アプリが多数あり、音を聞くことをメインに言葉を学ぶ人が増えました。しかし、その勉強法においても、文法は不可欠です。

現在筆者は、スウェーデン語を勉強しています。今までさまざまな勉強法に挑戦してきましたが、今回はスウェーデン語の音を聞いて英語で回答するアプリを使っています。しかし、これだけでは、スウェーデン語を覚えることができなかったのです。

アプリを始めて1~2か月。簡単な言葉は意味を取れるようになりました。しかし、その後はどんなに時間をかけても、複雑な文章を理解することができませんでした。「なぜこの単語がくっついているのだろう」、「なぜここでは倒置が起こっているのだろう」とモヤモヤしてしまうと、うまく覚えられなかったのです。

そこで途中から、文法の勉強とアプリでのリスニングを並行して行う方法に変えました。すると驚いたことに、複雑な文章も頭に残るようになったのです。読解力や文章を組み立てる能力は各段に上がり、言葉を覚える量も増えました。

今思えば、簡単な文章も無意識のうちに英語の文法に当てはめていたので理解できたのです。文法なくしての理解は難しいということを、身をもって体験した瞬間でした。

スピーキングに関しても、文法は重要だと思ったことがあります。語学留学の際に感じたのですが、日本人は他国の学生よりも早くきれいな英語を話せていました。開始時こそ他国の学生に圧倒されていましたが、いったん話すことに慣れるとスムーズな会話ができていたのです。文法の基礎ができているので、文章を構成する能力が高かったのだと思います。

文法をおろそかにしての言語習得はあり得ない

「言葉を使えるようになるには、とにかく話すことが重要だ」
このように言う人は多くいます。しかし、それだけでは、到達できるレベルに限界があります。相手の意図するところをしっかり読み解き、自分の言いたいことを間違いなく伝えられるようになるには、文法の知識が不可欠です。

この点からすると、日本の英文法重視教育はまったくの的外れではありません。残念なのは、英語をコミュニケーションで使うための訓練がなされていないことです。文法に重点を置いていることではありません。文法とその他のスキルを同じように重視して勉強してくことが重要なのだと思います。

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