私たち日本人は、英語の文法は強いのに話すのが苦手です。英語はさまざまなスキルをバランスよく鍛えなければ使えないためです。とはいえ、忙しい中あれもこれも勉強するのは大変でしょう。
しかし複数のスキルを一度に鍛える方法があるとしたらどうでしょうか?
シャドーイングは1日15分程度のトレーニングで「聞く」・「話す」・「読む」が同時に鍛えられる、夢のような方法です。特別な教材は必要ありませんので、すぐに実践できます。こちらでは、シャドーイングの正しいやり方やコツ、おすすめのスマホアプリをご紹介します。
目次
シャドーイングとは
音声を聞いた後に0.5~1秒空けてその音を繰り返す英語学習法です。影のように音を追いかけるので「shadowing」と呼ばれています。翻訳家のトレーニングとして取り入れられるほど実践的で、世界の言語教育の現場でも推奨されています。
なぜシャドーイングで複数のスキルを鍛えられるのか
リスニング、スピーキング、リーディングが一度に鍛えられるシャドーイング。効率的に英語が勉強できる秘密は、トレーニングの効果が複数のスキルと密接に結びついていることにあります。
効果1:音を聞いて理解するまでのスピードが上がる
こちらの効果はリスニングとリーディングに影響します。
音声の後に発音するシャドーイングでは、「聞く:音声知覚」→「理解する:意味理解」というプロセスを短時間で、集中的に、何度も繰り返します。人は言葉を聞いたとき、まずはその音がどのようなものかを判断し、自分が扱える音の形式へと変換します。
これが「音声知覚」です。その後は自分の脳内で単語や文法、発音などの知識と音声を照合し、理解します。
この「意味理解」で、ようやく言葉を聞き取れた状態になります。この音声知覚と意味理解はほぼ同時に行われますので、どちらかに比重が傾いていると言葉が正しく聞き取れません。リスニングができない要因の一つは、音声知覚に労力を費やしすぎて、意味理解に手が回っていないことです。
シャドーイングではまず「音」をとらえることに集中します。訓練を重ねると音を聞く労力が少なくなるので、「音声知覚の自動化」が起こります。そして意味理解に集中できます。
意味理解においても、脳内の知識へ何度もアクセスするにつれ、プロセスがスムーズになります。その結果、音を自然に捉え意味を素早く理解できるようになるので、リスニング能力が上がるのです。
この効果はリーディングの速さにも影響します。シャドーイングは話す速度で英語を捉える練習にもなりますので、英文を短時間で読めるようになります。さらに意味理解がスムーズになれば、文字を逐一日本語に訳さなくても理解できるようになります。
効果2:英語のアクセントやリエゾン、発音に慣れる
こちらはリスニングとスピーキングを上達させる効果です。
重要な単語を強く発音するアクセントや、単語同士の音が繋がってしまうリエゾン(連音)。これらは日本語にないため、日本人が英語を聞く際にまず躓きます。この独特な強弱やリズムに慣れることは、リスニングトレーニングの第一歩といえます。
また文章を繰り返し聞いて英語のリズムが脳にしみこむと、話すときに自然なリズムを出しやすくなります。音声を真似ることで発音も改善されますので、よりネイティブに近い英語を話せるようになるのです。
効果3:語彙力のアップ
単語やフレーズの知識は、リスニング、スピーキング、リーディングにおいてプラスになります。
何かを覚えるときは、インプットだけでは不十分です。例えば難しい漢字を覚える際、見るだけでなく繰り返し書いた経験はありませんか?英語も同じで、音に関しては「聞く:インプット」と「話す:アウトプット」がセットになっているほうが覚えやすいのです。
記憶には、意識的に思い出さなければならない「顕在記憶」と、無意識に思い出せる「潜在記憶」の2種類があります。
単語やフレーズは、繰り返しインプットとアウトプットを行うと「潜在記憶」として脳にしみ込みます。これにより、英会話で自然とフレーズが出てきたり、リスニング・リーディングの際に日本語に直さなくても意味を取れたりするのです。
シャドーイングのやり方
複数の効果があるシャドーイングですが、いきなり音声を聞いて発音するのは難しいです。そのため、最初はいくつかのステップを踏むのがおすすめです。
筆者おすすめのシャドーイングのやり方は、
- 文章を音読
- 文章を見ながらシャドーイング
- 文章を見ないでシャドーイング
という3ステップです。
まずは文章を音読し、これから流れる音声の意味を取れるようにします。発音やリスニングでつまずきそうな部分も確認できます。
次に文章を見ながらのシャドーイングです。大切なのは、文章を見つつも「音」を頼りに発音することです。文章から音を想像して、自分なりの発音をしては意味がありません。
この方法が難しいという人は、文章を見ながら音声と同時に発音する「オーバーラッピング」から始めてみてください。また何度かリスニングしてみると、シャドーイングがしやすくなります。
最後に、音だけを頼りにシャドーイングします。たとえ追いつけなくても音を真似るのが大切です。最初から完璧にシャドーイングするのは難しいので、何度か繰り返してみてください。つまずきやすい部分は、音声を一時停止して練習すると発音できるようになります。
シャドーイングのコツ
何度もこなせば複数のスキルを底上げできるシャドーイングですが、コツを抑えればさらに効率的に英語力がアップします。以下は、筆者が実際にシャドーイングする際に押さえているポイントです。
アクセントを真似る
すこし大げさなくらいにアクセントを真似てみてください。英語は重要な単語にアクセントをつけ、リズミカルに発音します。アクセントをつけるべき単語を強調するだけで、いわゆる日本人の英語発音から抜け出せます。恥ずかしがらずに、音源の人になりきって発音するのが大切です。
リエゾンを真似る
ネイティブの発音にグッと近づけるには、リエゾンすべきところをしっかりくっつけるのがポイントです。リエゾンすべき部分には法則性がありますが、会話中にそれらを思い出している暇はありません。そのため音で覚えてしまうのが一番です。こちらも演技するくらいの気持ちで、話者になりきって発音してみましょう。
「r」「l」「th」「a」を意識する
日本人が苦手とする「r」「l」「th」の音が出てきたときに、しっかり意識して口や舌の形を作ってみてください。最初はきれいな音が出ませんが、練習するにつれて正しい発音ができるようになります。
また、「a」はアではなくアとエの中間の音として発音するのがポイントです。「ア」とはっきり音を出してしまうと、途端に日本語発音になってしまううえに、他の単語と間違われる可能性があります。
時々録音して聞いてみる
自分の声を録音してみると、話しているときには分からなかった弱点やミスに気づけます。Rから始まる単語の音がくぐもってしまう、リエゾンすべき単語を分けて発音しているなど、さらなる改善点が見つけられるはずです。また時々聞いてみると、自分の発音の変化を確認できます。
同じ文章を繰り返し練習する
繰り返しは音声知覚と意味理解のプロセスをスムーズにするのに効果的です。文章が完璧に発音できたと思えるまで練習してみてください。また繰り返したフレーズは潜在記憶として蓄積されるので、実際に英語を話す際に自然に出てくるようになります。
筆者はこれらを意識しながら、1年以上シャドーイングを続けています。その結果、自分に向けられている英語はほぼ聞き取れるようになりました。また、意識していなくても「th」の音が出せます。「r」と「l」も、違う音として出せるようになってきました。
全体的な発音も向上し、会話の際に聞き返されることが減りました。そして意外な成果として、洋楽が歌いやすくなりました。洋楽が好きな人にも、シャドーイングはおすすめです。
おすすめのシャドーイングアプリ
ここで筆者の愛用しているアプリを紹介します。その名も「Shadowing」です。残念ながらAndroid専用のアプリなのですが、こちらの教材は課題がレベル別に分かれており、初心者でも始めやすいです。
また一つの課題が
- 音読
- 文章を見ながらのシャドーイング
- 音声だけでのシャドーイング
- 発音テスト
の4つに分かれており、段階を踏んで練習できるのが魅力的です。それでも1課題15~20分程度で終わるので、忙しい人でも気軽に取り組めます。無料のアプリなので、興味がある人はぜひ活用してみてください。
『Shadowing』
シャドーイングで効率よく英語力を上げよう
シャドーイングは1日たったの15分でリスニング、スピーキング、リーディングが確実に上がる勉強法です。忙しいけれど英語の勉強がしたい人は、休み時間や寝る前など1日のスケジュールにシャドーイングを組み込んでみてください。
大切なのは短時間でも続けることです。成果は数か月で現れ、以前はできなかった課題ができるようになります。自身の英語力アップが実感できるので、楽しみながら勉強できます。
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