昔は代書屋さんと呼ばれていた行政書士。
法律に関する様々な手続き、書類の作成や提出の代行などを行うために必要な資格です。
同じ法律関係の資格の中でも、弁護士や公認会計士等に比べて、比較的ハードルの低い試験だと思われていますが、実は様々な分野で非常に活躍できる資格。
今回は、行政書士試験学習のポイントについてご紹介します。
行政書士試験は、どんな人が受験しているの?
法で定められた、行政機関への届出や手続き等のために必要な書類を専門的に作成する際には、なくてはならない資格、行政書士。
行政書士として開業するだけではなく、社内の管理部門や法務部門といったセクションなどで生かすこともでき、弁護士事務所や会計事務所などでも活躍の場が非常に広い国家資格です。
法律関係の士業資格には、裁判で活躍したり、あらゆる契約やトラブルの法律判断や相談を受けることもできる弁護士資格。特許や意匠、実用新案などの手続きや相談などを受けることができる弁理士資格。土地や建物といった登記等に関連した手続きを多く扱う司法書士など、様々な資格が存在します。
これらはご存知のように、それぞれが非常に難しく合格率も高くない試験です。
対して行政書士試験の場合、一般教養問題に近いものも含み、試験の出題範囲としては非常に広いながら内容は上記法律系資格と比較すると易しい傾向にあります。
受験資格が特になく、年齢、学歴、国籍等に関係なく誰でも受験可能。そのため受験者の年齢も年度によっては8歳から93歳までと非常に幅広いこともあります。
手に職をつけて、今後開業や就職、融資等に関して有利に働くようにといった理由で、行政書士資格の取得を目指す方が多いようです。
特に子育て終えた主婦や、定年を迎えたシルバー世代、病気等のために長いブランクを抱えた社会人なども行政書士資格を取得している方が散見されます。
行政書士試験とはどんな試験?
1年に1回行われる国家試験で、その年により多少日付は前後しますが、願書の受付は毎年8月のほぼ1ヶ月間。郵送での申し込みと、インターネットでの申し込み方法があります。
受験手数料は7,000円(参考:平成30年度)。
試験日は、11月の第2〜3週前後で、日曜日の午後1時から約3時間の試験です。
合格発表は、翌年の1月最終週から2月第1週の間です。
試験問題は大部分が択一式です。その他に多肢選択式、短い記述式の問題、1行内の文字を書かせる問題が数題ありますが、記述式0点では合格できません。
また一般知識も得点率も低ければ合格できません。
試験は、一般財団法人行政書士試験研究センターが行っており、全国すべての都道府県に最低1ヶ所以上の試験会場があります。
北海道や東京などでは、移動が非常に困難な時期には試験会場も複数あるので受験しやすくて便利ですね。
参考 行政書士試験の試験会場行政書士試験の出題内容
行政書士試験の出題範囲は、
- 法令科目
- 憲法
- 行政法(行政法の一般的な法理論、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法及び地方自治法など)
- 民法
- 商法
- 基礎法学
- 一般知識科目
全60問で、そのうち記述式が3問、多肢選択式が3問前後出題される傾向にあります。
事前に合格の基準点が公表され、それを超えている人が合格者となります。
中学を卒業しただけで高校での学習経験が全くなくても、毎日丸一日勉強にあてれば、3ヶ月から半年ほどで合格できる人もいらっしゃるようです。
合格率はその年によってかなり上下しますが、概ね8~16%前後の間です。
行政書士試験は、法律に詳しくなくても独学で合格を狙える資格です。
行政書士のテキストや問題集は1冊にまとまっているタイプのものが多く、全く学習をしたことがない人でも理解しやすい書籍が多数あります。
多くの方はテキストを1冊購入し、人によっては通勤時などに眺めやすい電子ブックや片手に収まるハンドブックタイプのものなども併用しています。
問題集としては過去10年分ほどの本試験問題がまとまった一冊ものに加え、試験直前期には予想問題集を併用している方が多いようです。
書籍類は比較的値段が安いものも多く、独学で書籍ベースで学習すればかなりお得です。
インターネットでも無料で見られる動画の講義や、PDFの教科書を用いた講座などもあります。
もちろんお金を払ってスクールに通って学ぶタイプや、毎月決められた課題が送られてきてそれを返送することで採点をしてもらえるタイプの通信講座などもあります。
他の法律関係の資格試験や国家試験に比べ、無料で受講できる教材がインターネット上には非常に多くある点では嬉しいですね。
憲法はどんな問題が出題されるの?
憲法の問題は、毎年択一式が5問と、多肢選択式が1問出題されます。
法律関連の科目の中では全体の9%前後しか出題されませんが、高校の社会科の授業では1番最初に学ぶ事柄でもあるので、高得点合格者の多くは1問も落としていません。
ところが近年は、非常に難易度の高い問題が1問程度記載されています。
この手の問題は時間をかけてずっと考え抜くよりも一旦は後回しにする方がよく、確実に解ける問題から着手するよう心がけましょう。
基本的には条文そのものの問題以外にも、高校で習うような憲法の条文から1歩進んだ解釈問題が多く出ます。
選択肢に関しては、ひっかけ問題も多いのですが、毎年似たようないくつかの表現の中から決まったパターンのものが出題されています。
過去問と同じようなものが出るため、過去問題集を繰り返し解く練習をする方が多いようです。
後にご紹介する基礎法学の問題同様、まずはここの現代社会や政治経済の問題集の憲法部分や法律一般の教養部分について、テキストを読んだり問題演習を行っていくと、理解しやすいでしょう。
憲法はテキストを一度サラッと読んでみて、自分の理解が足りない部分がないかを問題集でチェックします。
一通り問題集を解いてみて、間違いが集中しているところだけを軽く復習すれば、後は特に難しいこともなく問題は解けるはずです。
行政法はどんな問題が出題されるの?
行政書士試験全体の60問の中で、多肢選択式2問、記述式1問、そして択一式19問と最も多く出題されているのが、この行政法です。
全体の内で、約40%近くの割合を占めています。
なじみの少ない問題が多く見受けられますが、この分野を得意科目にしておかなければ合格はあり得ないでしょう。
出題範囲は非常に浅くかつ広い傾向があります。
高校生の教科書や入試の際にもよく出題される行政手続法や行政不服審査法、行政事件訴訟法や国家賠償法、そして地方自治法等は、その手続きの他にも判例知識や補償等に関わる問題などが多く出てきます。
また、行政に対して様々な請求などを行うときの手続きや法令、これらにまつわる数字も出題されやすいです。
行政法総論については、行政組織や行政行為、行政作用などについてしっかりと学んでおく必要があります。
行政書士に関する条文や知識なども問われることもあります。
行政法の分野に関しては、最初にまず条文を確認した後は、完全に行政書士試験のテキストからだけ学んだ方が効率が良いでしょう。
非常に領域が広いため、出題されやすい部分や問題の難易度、聞かれるポイントや用語などに的を絞った無駄のない学習方法がお勧めです。
既に高校時代の現代社会や政治経済などでこの範囲を学習していて基礎力があれば、行政書士試験のテキスト内でこの分野は通読だけを行っておけば、知識をカバーできることもあるでしょう。
その後で過去問を解き、アウトプットをしてみましょう。
こちらも、直近2〜3年内の判例やニュースなどは、出題される可能性があります。
試験前に発売される各社の行政書士試験の予想問題集や、行政書士試験講座のある資格スクールの直前予想などを参考にしながら、特徴的な問題を押さえておきましょう。
分かったつもりになっていても、手続き関連の数字や判例などの数字は意外に忘れやすいものです。
問題文を解く時には、特に数字の部分等について混乱がないよう、いつも目をつけてから解くように心がけましょう。
この行政法と民法の両方を中心にして、毎日欠かさず何問かだけでもいいので、出題形式に近いタイプの問題を暗記できるほど解き続けるようにしましょう。
その上で試験直前には時間を計りながら問題を解くようにし、本番での時間感覚を確認しておきましょう。
法改正のニュースについても漏れなくチェックしましょう!
民法はどんな問題が出題されるの
民法の問題は毎年択一式が9問、記述式が2問で、配点はそれぞれ36点と40点で、全体のうち約25%の配点となっています。
この民法科目と、先程ご紹介した行政法科目が行政書士試験に合格するためのキモとなっていて、かつ業務でも最低限知っていなければならない法令について広く問われる問題です。
単に法令の暗記だけで解けるような単純な問題ではなく、しっかりと理解をした上で各選択肢の記述内のどこがどのように間違っているかまでしっかり検討できなければ正答するのは難しいでしょう。
民法は、法律の中でも特に私人の生活で発生する様々なトラブルを対処する分野です。
条文は、総則、物権、債権の3分野から成り立っています。
民法の場合は、条文の理解に加えどのように適用されるのか、また条文自体はどのように解釈されているのかが非常に複雑です。
また、民法をはじめ行政法、商法会社法は最近の判決などに基づいて、法の解釈自体が変わってくるケースもあるので注意が必要です。
行政書士のテキストを見ていると、総則、物権、債権の中で、それぞれ関連して覚えた方が良い条文等ごとにまとめて単元が設定されていることがあります。
法律の場合、それぞれの単元ごとだけを切り取って理解すれば良いわけではなく、優先的に適用される条文はどれなのかといったことも意識して学ぶ必要があります。
大学の一般教養で法律などを履修されている人であれば比較的用意に理解できる範囲だと思われるので、いきなり過去問から学習をスタートしても大丈夫でしょう。
この分野について全く知識がない方の場合、まずは条文を読んで構成を知ることを優先なさってください。
民法は、自分の生活においてどのように関わっているのかを考えられると、理解の速度が早くなりやすいです。
その後、基本的には行政書士学習の基本テキストの順番の通りに学んでいけば、こういった優先されるべき条文や、例外的な判決等の事例も学べるはずです。
試験に出やすい部分以外は、暗記までしておく必要はないため、条文から暗記するよりは効率よくテキストから暗記する方が良いでしょう。
それぞれの単元を学んだら、その単元に対応した問題を解いていく方が学習初期には身に付きやすいものです。
テキストの中に豊富に問題演習が入っているタイプや、テキストと単元対応した傍用問題集があるタイプの試験対策テキストがお勧めです。
基本的な勉強方法としては、過去問を繰り返し解くことです。
そして、これは他の法律系科目にも該当することですが、受験する年度とその前年度などを含めて2〜3年間の予想問題集など最近の傾向を反映した問題集を解いておけると望ましいです。
最初のうちは、ひっかけ問題対応なども含め、選択肢の中のどんな部分どんな言葉に注目して読めば良いかを覚える必要があります。
テキストの章末に掲載されがちな○×式タイプの問題をまとめて解いたりすることで、正しい解釈のテキストをまずしっかりとインプットします。
その後過去問などを使って、引っかけ問題を含めた5肢からの選択など、徐々に範囲を広げて繰り返し問題を解くと良いでしょう。
民法の場合、一文字の違いが、解釈を真逆にしてしまう選択肢が見受けられます。
また、主語と述語の順序の違いと、ひっかけ問題を絡めた意地悪な問題も散見されます。
こういった出題形式に慣れるまでの間は、問題文をコピーしたりノートに転記して、ひっかけとしてよく差し替えられる言葉をマーキングして問題を解いていくようにすると良いでしょう。
また、択一形式の中では、この中でどれが間違っているかあるいはどれが合っているかといった出題があります。
選択肢それぞれについて正誤の○×をつけるのはもちろん、問われている内容が正しい選択肢を選ぶ問題なのか、誤っている選択肢を選ぶ問題なのかを強調したり判別したりするために、キーとなる部分に大きく○×をつけてから解くのもお勧めです。
ところで、行政書士は業務に際してはクライアントからの様々な書類やそれらの処理には欠かせない知識ばかりになるため、試験を実務に直結することを考えると、資格試験用のみならず、深くしっかりとケーススタディーも含めて理解しておく必要があるでしょう。
民法の出題範囲では事例見識と呼ばれる、適用すべき両分野判例を当てはめて問題を解決するまでのプロセスを答える問題が出題されるので、しっかりと知識が身に付いており、それを応用して問題が解決できるところまでが求められています。
注意すべきは、事例見識問題への対策を始めると手を広げすぎてしまいがちになり、多くの時間を要してしまう点です。
行政書士試験より難しい司法試験などでも、このようなケーススタディー対応の学習を進めると、急に学習範囲が広がりやすくなります。
行政書士の試験では、これまでにケーススタディタイプの問題が出題された回数があまり多くないため対策には迷うところですが、試験の直前期に出版されることが多い各社の予想問題集の中から事例見識問題を拾い、1冊ノートにまとめてみても良いでしょう。
難度が低〜中程度の問題だけでも正答できるように、過去問を何度も繰り返して練習しましょう。記述問題の対策も忘れずに!
商法会社法はどんな問題が出題されるの?
条文だけを確認すると、非常にその数が多い商法会社法。
全問中では択一式が5問出題され、商法が1問と会社法が4問あります。
全体のうちの7%程度しか出題されないと言うこともあり、あまり力を入れる必要はないでしょう。
この分野だけで弁護士事務所などを立ち上げる方もあるように、非常に広大な取り扱い分野があります。
そのため、あまり力を入れて勉強しすぎるのは費用対効果が悪いと言えます。
条文に関しては全体を読むのではなく、行政書士試験のテキストに記載されている範囲だけ、条文を参照するようにしましょう。
出題頻度の高いところから勉強していくと効率が良いです。
この中で、特に行政書士が業務として扱うことも多い株式会社や各種の会社の設立手続き、規模やそれぞれの権限など、またその運用等に関するルールについては、非常に詳しくまとめておいた方が良いでしょう。
現在まで約10年程度の間で出題されてきた問題のほか、近年制度的に変更があった部分があれば、直前予想問題集などをチェックしてこの部分だけを集中的に学習しておきましょう。
まずは出題頻度の高い項目を学習し、問題の演習に取り掛かりましょう。
基礎法学はどんな問題が出題されるの
基礎法学は、60問のうち毎年2問程度出題されます。
全体の問題の割合から言うと3%程度の配点です。
出題予想が非常に立てにくい問題で、倫理的な問題から、法の解釈、法令用語のようなものが出ることもあり出題の種類が豊富です。
2問のうちの1問は、比較的簡単な問題が出ます。
もう一問は難易度が年によって様々なので、100%確実に得点すると言うのは難しいかもしれません。
行政書士の講座を開講している資格試験スクールの情報サイトなどで、あるいはその年の予想問題集などで、基礎法学の予想問題が出ている場合以外は、特にこれだけに集中して試験対策をする必要はありません。
一般知識はどんな問題が出題されるの?
一般知識は全体のうち14問出題され、政治・経済・社会といった高校での学習内容がほぼそのまま出題される問題が7〜8問もあります。
一般知識の問題においては、4割以上正答することで基準点を超えることができます。
話題になっている政治経済の内容や、法令に関する報道等をニュースなどで見ておくと良いでしょう。
このほかに情報通信・個人情報保護に関する問題や、文章の理解力を問う問題も出題されます。
現在学校で情報処理の科目等を学んでいる学校であれば、法令そのものとインターネット関連の用語については、高校卒業程度の内容でも十分対応できます。
ですが、近年、個人情報保護をはじめとした大きな法令の改正があり、周辺で起きた事件なども合わせて押さえておきましょう。
一般知識の中には、文章理解と呼ばれる空所補充や並べ替えといった国語の問題も含まれていますが、ひっかけ問題が出題されることが多いので注意が必要です。
そのため、○×タイプで素早く解ける試験対策問題や、アプリタイプの問題集などを使ってたくさんの問題をこなすことで、問題文の特徴も含めて出題パターンを暗記しておけるとよいでしょう。
しっかりと対策を立てて勉強の計画を立てましょう。
全体の学習計画は?
出題のベースは高校や大学1年の教養時代の法律の学習程度の知識をベースに、問題演習から得られる知識をプラスした程度です。
司法試験等と違ってかなり深い理解が必要でかつ論述等が必要という問題ではないため、あまりたくさんのテキストや問題集に手を広げてしまうと費用と時間の無駄になります。
理解する範囲としても、それぞれの法律分野によってかなり範囲が異なります。
特に条文を全て読むことが必要となる科目以外では、条文全てを通読する必要もありません。
基本的には、入手した行政書士試験対策テキストを中心に、学習を進めるだけで大丈夫でしょう。
全く法律の履修歴がない方である場合、必要な部分だけの条文の読み込みとテキストの通読、テキスト内の基本問題の演習で約1ヶ月と、過去問の演習で約5〜6週間が必要になるでしょう。
各出版社で春先などに発売される、行政書士試験の直前予想問題集を残りの期間に繰り返し行うのが良いでしょう。
全体のノートまとめてしまえばかなりの時間の無駄になります。
自分が間違えがちな問題の単元や範囲などだけに限って、ノートまとめるようにしましょう。
そのためには、テキストは書き込みやマーカー引きを行うものと割り切って、初めから購入しておくのも良いかもしれません。
また行政書士試験の場合、他の法律系の試験と違い、秋の終わりに試験日が設定されています。
そのため法改正等の影響を受けた問題が比較的多く出題される可能性があり、テキストは新しいものであることが必須。
加えて、今年の変更点に対応した問題に対応するため、ベテランの受験生でも初めての受験生でも、各社から出ている直前予想問題集を買うのはお勧めと言えます。
まとめ
今回は行政書士試験の学習のポイントについてご紹介しました。
最近は、高校生や大学生が就職活動に備えて、行政書士試験に積極的に取り組んでいるケースも増えています。
完全に独学の場合、新刊本やスマホアプリを中心にしたインプットとアウトプットで約5〜6,000円で足りてしまうほど、リーズナブルに受験対策できる国家資格です。
就職活動や、これからの人生についていろいろ目標設定に悩むところがあるのなら、行政書士試験への取り組みを1つのきっかけにしてみるのも良いかもしれません。
行政書士についての記事はこちらも参考になさってください。
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