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微分積分物語―意味を知れば面白い高校数学

数学

高校数学の難関といえば、微分積分。理系であれば数Ⅱ、数Ⅲと科目を渡って出現し、文系でも進学校なら避けては通れない分野です。現在高校生の方はもちろん、既に卒業した方も、「あの訳の分からない記号がいっぱい出てくるやつ」という苦しいイメージでとらえている方が多いのではないでしょうか。

しかし、微分積分はただのややこしい記号、と片付けるにはもったいないほどの物語が詰まっています。微分積分の意味を知って、微積のイメージを変えてみませんか?

微分と積分が作られたのは、昔の人を悩ませた「曲線」のせい

昔の人にとって悩みの種だったのは、「曲線」の扱いでした。曲線はグネグネと曲がってまっすぐではないので、うまく測ったり、形を計算したりできないのです。そこで生み出されたのが微分と積分でした。

例えば、曲線の長さや形を正確にとらえたいという要求にこたえて作られたのが微分です。

一方で、曲線に囲まれた土地の面積を知りたいという要求にこたえて生み出されたのが積分です。

歴史的には微分より、積分が先!

高校の数学では、微分を先に習い、積分を後に習うのが通常の流れかと思います。しかし、実は歴史的な話をすれば、積分の基本的な考え方の方が微分より先に確立しています。

曲線の形を知るには、「接線」を知ればOK

歴史的には積分の方が早く用いられていたとはいえ、ここでは数学教科の流れに従って、まずは微分について解説していきましょう。

曲線は直線とは違い、点と点を結べば描けるわけではありませんから、形を正確に把握するのが非常に難しいのが難点でした。

そこで誕生したのが「曲線の接線をたくさん集めていけば、曲線を正確に分析できるのではないか」という考え方です。

例えば、ある曲線のグラフを次のヒントをもとに描いてみましょう。

  1. (-4,5)の点でこの曲線の接線の傾きは負。
  2. (-2,3)の点でこの曲線の接線の傾きは負。但し、(-4,5)の点の接線よりも傾きが大きい。
  3. (1,1)の点でこの曲線の傾きは0、つまりx軸に平行。
  4. (4,3)の点ではこの曲線の傾きは正。
  5. (6,5)の点ではこの曲線の傾きは正。但し、(4,3)の点の接線よりも傾きは緩やか。
  6. (8,6)の点ではこの曲線の傾きは正。但し、(6,5)の点の接線よりも傾きは大きい。

座標上に、この指示に従って接線を引いていくと、何となく曲線の形が見えてくると思います。もっとたくさんの座標で接線を取っていけば、どんどん曲線の形が正確になっていくはずです。

大雑把に言うと、

接線の傾きが正  ⇛ 増加曲線
接線の傾きが負  ⇛ 減少曲線
接線の傾きが0  ⇛ 先が丸くなる
接線の傾きが減り続けていたのにある点で増加に転じる ⇛ 曲がる向きが変わる

つまり数式が作る曲線のグラフを描きたいときには、接線を求めることが重要になるわけです。

「変化の幅を限りなく0にする」ことで接線を捉える

曲線の動きを把握するためには、接線が重要だということが分かりました。そこで、今まで曖昧に決めていた「接線」というものを厳密に定義することにしました。

「接線」は、曲線に接する線です。これを求めるために、まずは曲線のグラフf(x)の適当な点を2つ(a, f(a))、(a+h, f(a+h))haからの距離)を取って、(a, f(a))座標におけるグラフの接線を考えてみましょう。

中学校で習った方法で考えれば、2つの点を結んだ傾きは、

\displaystyle\frac{f(a+h)-f(a)}{(a+h)-a}

で表されますよね。よって、(a, f(a))(a+h, f(a+h))の2つの点を結んだ直線の式は、

\displaystyle y=\frac{f(a+h)-f(a)}{(a+h)-a}(x-a)+f(a)

になります。

hの値が大きいほど直線が曲線f(x)のグラフと交差してしまうので、

\displaystyle y=\frac{f(a+h)-f(a)}{(a+h)-a}(x-a)+f(a)

は、とても接線とは呼べません。

ところが、hの値を限りなく0に近づけていくと、

\displaystyle y=\frac{f(a+h)-f(a)}{(a+h)-a}(x-a)+f(a)

はどんどん、x=aにおける曲線の接線に近づいて来るのです。

a+hをaに極限まで近づけることで、接線を定義することができます。具体的には以下の式で表すことができます。

y=\displaystyle \lim_{ h \to 0 }\frac{f(a+h)-f(a)}{(a+h)-a}(x-a)+f(a)

=\displaystyle\frac{f(a+h)-f(a)}{h}+f(a)

 

このように接線の傾きの部分\displaystyle \lim_{ h \to 0 }\frac{f(a+h)-f(a)}{h}(導関数)を求めることは「微分する」という名前で呼ぶことに決まりました。またf(x)の導関数は\displaystyle\frac{dy}{dx}の(\displaystyle\frac{yの無限小増加}{xの無限小増加}  )、あるいはもっと簡単にf'(x)という記号であらわされます。

接線を簡単に求める方法が考えられた

極限の計算にはlimという極限の考え方を使う必要があります。しかし、limを使い接線を求めるには非常に複雑な計算が必要です。そこで微分を簡単にする公式が作られました。

(n=1,2,3…の時)

f(x)=x^nの時、f'(x)=nx^n-1

この公式を使えば、極限の計算を回避でき、お手軽に微分をすることができます。
例えばf(x)=x^2+xを微分すると、f'(x)=2x+1となります。

曲線で囲まれた土地の面積を求めるために超細かく分割する!

次に積分についての話をしましょう。

積分は曲線で囲まれた土地の面積をどうやって求めたらよいのか、を解決するための方法です。昔の人は曲線で囲まれた土地の面積を求めるために、面積をできるだけ細かく分割して四角形に近づけていくという考え方を編み出しました。

例えばスイカは丸いですが、たくさんの人数に分割すればするほど、端っこの丸みがだんだん直線に近づいていきますよね。同じように、曲線で囲まれた部分を超細かく分けていけば、だんだん丸みが取れて直線で囲まれた四角形に近づいていきます。その小さな四角形の面積を全部足し合わせれば、曲線に囲まれた面積の値に近くなるはずです。

この時代、曲線の形を求める微分と曲線で囲まれた土地の面積を求める積分は全く別のものだと考えられていました。

積分=微分の逆という発想

しかし、ある時「積分は微分の逆作業である」という画期的な発見がもたらされました。きっかけとなったのは、ドイツ国王の命令で天文表を作っていたケプラーという人物が発見した宇宙の法則です。

ケプラーは太陽と火星の動きのデーターをグラフ化し、火星が太陽の周りを楕円形軌道で動いていることに気が付きます。そして「惑星は惑星と太陽を結ぶ直線が同じ時間に同じ面積を掃くようにして動く」というケプラーの法則を発見しました。

つまり楕円という曲線軌道と曲線で囲まれた面積の間に何らかの関連性がある、ということが宇宙から証明されたことになります。

この考え方をより推し進め、最終的に「積分は微分の逆である」という理論を確立したのがニュートンです。

つまり…

式f(x)の曲線グラフとx軸で囲まれた面積をSとします。この面積Sを縦に細かく分割し、長方形に似た形をいくつも作ります。この長方形の縦の長さはf(x),横の長さはΔx(Δxはxの増加分)だから、長方形の面積Sの増加分ΔS縦×横=f(x)×Δx≒ΔS(完全な長方形にはなっていないので=ではなく≒)⇔ f(x) \displaystyle ≒\frac{ΔS}{Δx}

この時Δxが限りなく小さくなる=面積を限りなく分割すると≒はどんどん=に近づいていくので、

\displaystyle \lim_{Δx \to 0} \frac{ΔS}{Δx}

\displaystyle=\frac{dS}{dx}  (\frac{Sの無限小増加}{xの無限小増加}   )=f(x)

これは、微分のところで出てきた導関数に他なりません。

つまり面積Sをxで微分すると、面積の元になるf(x)の曲線が導ける!ということですね。

そして逆に言えば、曲線の式f(x)に微分の逆のことをしてあげれば面積を求める式になるというわけです。

 

公式で見てみると

(n=1,2,3…の時)f(x)

=x^nの時f'(x)=nx^{n\ -1}の逆の操作だから

\displaystyle\frac{1}{n+1}×x^{n\ +1}

をすれば、面積を求める公式の出来上がりです。

 

例えばf(x)=3x^2を積分すると、\displaystyle\frac{3x^3}{3}+C(Cは積分定数:定数は微分すると消えてしまうので文字で表しています)微積分学発見の裏には、星をめぐる宇宙の壮大な法則がかかわっていたと考えると、ちょっとワクワクしてきませんか?

 

 

「参考資料」

『微分・積分の意味がわかる―数学の風景が見える』野崎昭弘・何森仁・伊藤純一・小沢健一著 ベレ出版

京都産業大学 「微積分が導いた宇宙の法則—万有引力の発見は数学の賜物—」

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