小学生の宿題から考える、繰り返し勉強法の効果とは?

小学生の宿題

皆さんは小学生の頃、漢字の書き取りをやらされた記憶はありませんか。

私は漢字や国語が好きだったのであまり苦ではありませんでしたが、同級生には漢字の書き取りが嫌いな子が多くいた印象があります。
やはり遊び盛りの小学生、ただ同じ文字を書き写し続けるだけの作業は退屈で、苦痛なのでしょう。

苦しい反復練習

ある時、国語の女性教師に対して同級生の男の子が声を荒げたことがありました。
「こんな漢字の書き取りして何の意味があるんだよ!」と言っていたのですが、そのときはクラス中が「確かにそうだな」といった雰囲気に包まれていました。

正直、私自身も漢字の書き取りは退屈な作業だと感じていましたし、これに対して女性教師はどのような返答を返すのか、純粋に興味がありました。
私は他の同級生と同じように爛々とした目を女性教師に向け、返ってくる言葉を待っていました。

しかし女性教師が返した言葉は、そんな私の淡い期待を打ち砕く、漢字の書き取りよりもつまらないものでした。

宿題だからね、嫌でもやるの。大人になったらもっと嫌なことがたくさんあるんだから。

私はこの言葉に対して、大人になっても、いや、大人になってからこそ、違和感を拭いきれませんでした。

女性教師の言葉をその通りに受け取ると、書き取りには何の意味もなく、宿題として何の意味もない嫌な作業を押し付けているだけだ、という意味合いになってしまいます。

しかし、ここまで学問の発達した現代の教育で、そんな事が本当にありえるのでしょうか。
大人になればなるほど、この言葉に対して疑問が湧いてきました。

大人になって分かったこと

心理学の概論書を読んでいた時、その答えを見つけたのです。

それはエビングハウスの忘却曲線でした。

あのつまらない漢字の書き取りに意味があったのだと知ると、あの女性教師の言葉が脳内で反芻されました。

宿題だからね、嫌でもやるの。大人になったらもっと嫌なことがたくさんあるんだから。

今の私は胸を張ってその言葉に反論できますが、当時の私はその言葉を額面通りに受け取るしかありませんでした。

意味があるのかないのか分からない作業を延々と続けるのは、ナチスの拷問方法にも採用されているほどに大きな人間の苦痛の一つです。

現在、暗記科目の勉強をしていて、作業のような反復学習の繰り返しに嫌気が差しているあなたへ少しでもやる気が出るようにという願いをこめて、反復学習の意味をお伝えしたいと思います。

反復学習の意義とは?

反復学習についてのぜひが問われた際、必ずと言ってよいほど引用される理論があります。
エビングハウスという心理学者が提唱した忘却曲線理論です。

これはどういうものかというと、人間の記憶が忘れられていく時間経過…ではなく、思い出すのに必要な学習時間に関するデータを曲線として表したものです。

エビングハウスは「無意味つづり」という方法を用いて「一度完全に暗記したもの」を「思い出す」のに必要な復習回数をデータ化しました。これを、思い出すのに必要な復習回数が節約されたという意味で節約率と呼んでいます。

ここがよく勘違いされていますが、忘れていく過程を表した曲線データではなく「思い出すのに必要な復習回数をデータ化したもの」なのです。

つまり、20分後には記憶した58%しか残っていない(=42%を忘れてしまう)ということでは流石になく、20分後にもう一度同じことを完全に思い出そうとした場合に、当初の42%の復習回数で思い出せる(=節約率が58%である)、ということです。

また、エビングハウスは何度も復習を行えば行うほど、完全に思い出すために必要な復習の回数が減っていくことに気が付きます。

エビングハウスの理論において重要となるのは節約率であるのはもちろん、この復習の必要性について述べられている点です。

どれだけ気合を入れて勉強して覚えたとしても人間の記憶は消去されていきますから、復習が必要なのです。
それも何度も、何度もです。
何度必要なのかは個人差がありますが、複数回の復習を経て、ようやく記憶は定着していきます。

その重要性を提唱したのがエビングハウスなのです。

なお、最適な復習のタイミングについてはこちらの記事で詳しくご説明しています。

一日経ったら三分の二も忘れている?復習の最適なタイミングを示す「間隔反復」とは?

心理学から考えるリハーサルの意義

先程お伝えしたように、記憶は黙っていても消去されていきます。

記憶を定着させるためには何度も何度も繰り返してその情報を記銘(新しい経験を受け容れて記憶すること)していく必要があり、この繰り返しのことを心理学ではリハーサルといいます。

リハーサルによって脳は「何度も送られてくるこの情報は重要なのだろう、覚えておくか」と判断します。
このような判断を脳が下すまで、または下した後も繰り返して記銘することで、脳内にしっかりと刻まれるようになります。

つまり冒頭でご紹介した、小学生の頃の何度も同じ漢字を書き取りさせる宿題には、リハーサルを利用して記憶に定着させるためという立派な意味があったのです。

国語の先生はもしかすると、小学生にエビングハウスの忘却曲線の話をしたところで十分に伝わるかどうか思案して、あえて誤魔化したのかもしれません。

しかし、現在行っている作業がどんな意味を持っているのか理解することは、勉強のモチベーションを左右する重要なファクターです。

もしあなたが、この作業に何の意味があるのかと自問自答しているのであれば、ぜひこの記事を勉強の意味、モチベーションになさってください。

いかに効率よく反復を行うか

とはいえ、モチベーションだけでは乗り切れないのがリハーサルの難しいところです。
漢字の書き取りを嫌っていたみんなも、恐らくその手間に嫌気が差していた部分が大きいのではないかと思われます。

こうした手間をなくすコツとしては自動化、またはシステム化することです。

例えば、小学生の時のある友人は鉛筆を右手に数本持ち、縦長の漢字ドリルを同時に埋めていました。
そのようなズルは流石にダメですが、リハーサルを効率的に行うためのシステムを作るのはとても有効な手段です。

お勧めとしては、英単語カードのように「めくるだけ」でリハーサルができる仕組みを作ることです。

「めくる」という行為はとても簡単で、単語カードさえあればいつでもどこでも取り組めるので、基本的に場所や時間を選びません。
そういった、簡単な作業を行うだけでリハーサルを達成できるシステムを作ることで、勉強がとても簡単になります。

反復の方法

更にもう少し踏み込んだ話をすると、記銘はなるべく目や耳だけでなく口や手も使って行った方が良いです。
なぜなら、ワーキングメモリーを余すことなく使うことで情報の入り口が広がり、記憶のフックが多くなるからです。

ワーキングメモリーとは、脳内で思考したり記憶を組み合わせたりする作業場のようなものだと捉えてください。

例えば「walking」という単語を覚える時、「歩く」という日本語訳の意味が書かれた紙を眺めるだけではなかなか覚えられません。

なので「ウォーキング、歩く、ウォーキング、歩く」というように発音しながら書き取りも行うなど、複数のインプットとアウトプットを繰り返すようにすると記憶に定着しやすくなります。

インプットとアウトプットの組み合わせを自分で作り、それを持ち運べる形に改造することで、面倒なリハーサルは一瞬で簡単な作業に変わります。

とりわけ今はスマホでそのようなアプリケーションをインストールできますので、ぜひ探してみてください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

漢字の書き取りはリハーサルを応用した学習方法であり、忘却曲線の理論から見てもリハーサルは記憶に情報を定着させる上で、とても重要な意味をもっていることがお分かり頂けたと思います。

大切なのはそのリハーサルをできるだけ効率的に行う仕組みを作ることです。
聴覚と視覚を組み合わせる方法は、簡単でありながら有効な手法ですのでぜひお試しください。

それでは、ご覧頂きありがとうございました。

 

記憶に関する詳しい記事はこちらからもご覧頂けます。

覚えたことは忘れない!長期間記憶できる勉強法とは?

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